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悪魔再び
「ん……ん?」
カイラは目を覚まし身を起こした。
円形状の、どこか淫らな雰囲気のベッドが中央に置かれた部屋。
「……っ!」
昔、ここに来た事が……というより呼び出された事があるカイラは、辺りを警戒し始める。
忘れられるはずもない。ここはカイラが忌々しい夢魔の呪いをかけられる直前に呼び出された場所。ミキが作り出した夢の中だからだ。
「よぉ、カイラ」
無数のコウモリが回転するように虚空を飛び、その中から黒髪黒目の艶めかしい青年が現れた。
「ミキ……!」
いくら他人に甘いとは言えミキだけはぶん殴らなくては気が済まないカイラは、腕を振りかぶろうとする。……が、上半身を起こした体勢のまま体が硬直してしまい、身動きが取れなくなってしまった。
ここは夢の中。ミキのテリトリーでは、全ての攻撃が徒労に終わる。
ガゼリオでさえミキに対抗できなかったのだ。ひよっこ魔導士にどうにかできる状況にない。
「まぁ、そんな睨むなって。怒ったら可愛い顔が台無しだぜ?」
カイラの動きを止めたのを良い事に、ミキはカイラに近付きもちもちとした両頬を撫でた。
「どうだ? 貞操帯生活にも慣れたか?」
「慣れる訳ないだろ」
「えぇ~そうかなぁ? 俺が知ってる男の中に貞操具とやら着けさせられて生活してる奴がいんのよ」
貞操具を着けている男とはもちろんディックの事である。
「ソイツ確か……5年はそんな生活してるんだけど、もう貞操具が体の一部な気がして、むしろしてないと落ち着かねーんだと」
鈴を転がすように笑うミキと対照的に、カイラは顔を強張らせた。
こんな忌々しい物が体の一部だなんて考えるだけでゾッとする。
「なぁカイラ。貞操帯って良いよなぁ?」
ミキは興奮で頬を赤らめながら続ける。
「チンポの自由取り上げられるだけでも惨めなのにさ。溜まり続けるだけの性欲を少しでも発散させようと、大半の人間は無駄なオナニーに耽るようになる」
身に覚えがあった。体の熱を鎮める為に陰茎以外を慰め続けたが、やはり射精できず眠れぬ夜を何度も過ごした。
「性欲を抑えられなくて、我慢できなくて……結局、鍵持ってる人間に『チンポシコシコさせてくださ~い』って恥を捨てて媚び諂 わなきゃならなくなる」
これも身に覚えがある。カイラは今まで何度もヴェルトに射精を強請ってきた。
「自分はセックスもオナニーも勃起もできねーのに、鍵持ってる人間はいつでもできる。時には見せつけるようにマスかかれたり勃起する事だってあるだろうよ」
自分が朝勃ちの痛みで目を覚ました時、ヴェルトが何不自由無く勃起しているのを見て嫉妬した事がある。
「キンタマパンパンにさせながらご主人様を悦ばせるだけの愛玩動物に成り下がる……俺ァそんな奴らのなっさけねー顔が大好きなのよねぇ♡」
ミキはカイラを力一杯押し倒し、無理やり足を開かせ貞操帯越しに欲望を咥えた。
「……っ」
とても射精には至らぬ微弱な快感に身悶える。
「はぁ……♡ キンタマん中破裂寸前じゃねーのか?」
カイラを責め立てるミキとは別のミキがカイラの隣に現れ、耳元で囁き続ける。
ミキが2人に増えた。夢である事を利用した影分身の術にカイラは困惑する。
「昨日ヴェルトに最後までシて貰えなかったんだろ? 可哀想に、ムズムズしてたまんねーだろ?」
「あ……あっ♡」
排泄用で開けられた穴から直接ティニーの頭を舌で撫でられたカイラは声を上げた。
「相変わらずチンポ小せえなぁ♡ 俺さ、童貞チンポとか短小チンポとか、とにかく弱いチンポ虐めるのが大好きなの♡ 両方兼ね備えたカイラの最弱チンポ♡ 可愛くて可愛くて仕方ねーよ」
「やめ♡ やめ……っ♡」
「あ? やめて欲しいってか? やだね。カイラだって気持ち良いだろ? 貞操帯いっぱいにチンポ膨らませて我慢汁漏らしてんじゃねーか」
「やだ、や……だっ♡」
「あは……カイラぁ。お前、随分とヴェルトにエロい体にされたみてーだな? こんなに惨めに虐められて……幸せそうに笑ってやがる」
口淫をしていたミキが消え、カイラは全身の力を抜いた。
「はぁ……はぁ……♡」
だが、休む間も無く次は1人に戻ったミキに覆い被さられ、ベリーのように熟した双丘の頂を2つ同時に指で摘まれる。
「んひぃっ♡」
「可愛いなぁ♡ 可愛過ぎて喰いたくなっちまう……そんなカイラちゃんに1つお願いがあるんだけどさ」
手を少々休めながらミキは続ける。
「クロウには手ぇ出すな」
先程までの羽より軽い様子とは打って変わり、眼光をギラギラとさせながらミキはカイラに迫った。
「……僕や僕の周りの人達には散々手を出したのに?」
そのようなミキの一言で、カイラの声が冷たい物へ変化した。
「ヴェルトさんの事も何度も襲って……! し、しかも、ヴェルトさんの初めてまで……!!」
ヴェルトの初めて……つまり、恋人がガゼリオから乱暴された事を言っているのだとミキはすぐに察した。
だが、あれはカイラの呪いが引き金となってガゼリオがヴェルトを襲ったというだけの出来事。
「ヴェルトの初めて? 知らねーよ俺」
「へ?」
ミキがヴェルトを襲った張本人だと思っていたカイラが目を丸くしたのを見てミキは艶っぽい笑みを浮かべた。
「と、とにかく……僕らに散々酷い事をしておいて、自分の大切な人には手を出すななんて都合が良すぎる」
「ふーん? あっそ、で?」
あまりに素っ気ない返事にカイラは更に怒りを募らせるが、ミキは冷笑してこう話し始めた。
「都合が良すぎるだって? よく言うぜ、テメェらだって都合だけで生きてるくせに。腹が減ったら平気で生き物を殺して、金が無くなったら平気で俺らモンスターを殺すくせに」
更にミキは早口で続ける。
「俺も都合の良い生き物だから、お前の言う事も聞いてやらねーよ。生きる為にお前らの精気を奪い尽くしてやる。それに……そうだな。もしクロウに手ぇ出したら……ヴェルトを殺してやる」
「ヴェルトさんが殺される訳ない!」
ミキの言葉を遮らんばかりの勢いでカイラは怒鳴った。
「それはどうかな? 例えばさぁ、カイラが俺に誘拐されたって聞いたら? ヴェルトならどんな行動を取る?」
カイラは一考し、すぐに『彼ならばどんな事でもする』という結論に至る。
もし『カイラを解放したくばお前の首を差し出せ』と無茶を言われても、あの人ならやりかねない。そのような危うさが彼にはある。
「返事はしなくて良い」
部屋の輪郭がぼやけて、ミキの声が次第に遠くなってゆく。
「ただ、どうするかしっかり考えろよ?」
途端にカイラは浮遊感を覚え、暗闇に放り出された。
***
「ッ!?」
カイラは目を覚まし身を勢い良く起こした。
自宅の寝室。どうやら無事に夢の世界から戻る事ができたようだ。
「……ん? どしたのカイラ君」
たった今起きたらしいヴェルトの寝ぼけ声を聞いたカイラの頬に大粒の涙が伝う。
『もしクロウに危害を加えれば、ヴェルトが殺される』……冒険者としての大先輩にあたる彼がミキなんかに殺される訳が無いと信じてはいるものの、ヴェルトの顔を見た途端に猛烈な不安感に襲われた。
彼がいなくなってしまう。そう考えただけで胸が張り裂けそうになるほど、カイラの中でヴェルトの存在は大きなものになっていた。
カイラがさめざめと泣いているのに気付いたヴェルトは、無言で彼を抱き寄せ頭をそっと撫で続ける。
そしてカイラが泣き止んだ頃にようやく「どうしたの」と静かに問いかけた。
「怖い夢でも見たのかい? 夢で泣いちゃうなんてカイラ君は子供だね」
すぐにカイラの事を揶揄うのを彼らしいと思い、少年は微笑んだ。
「……実は」
カイラは夢の世界で起きた事を全て包み隠さず話した。
「そう。ミキにそんな事言われたの」
「ヴェルトさん……僕、ヴェルトさんがいなくなるって考えただけで、その____」
「大丈夫大丈夫。いなくならないから、ね?」
ヴェルトは再び泣き始めそうになったカイラに優しい口付けを落とした。
「今はまだ死ねない。せめてカイラ君が一人前になるまでは」
「僕が一人前になっても勝手にどっか行っちゃダメですよ。僕、ヴェルトさんが側にいないとダメなんです」
「奇遇だね。僕ももうカイラ君がいないと生きていけない」
「じゃ、ずっと一緒にいてください」とカイラは願う。無理な願いだと思いながらもヴェルトは頷いた。
「仕方ないな……なら、クロウを傷付けない方向で何とか話をしなくちゃならないね」
「それよりも」とヴェルトが呟いた途端、カイラの貞操帯が緩んだ。
「ごめんねカイラ君。君がミキに散々触られたって聞いたから……こうしなきゃ気が済まない」
まるで自分の宝物を泥や垢で塗 れた手でベタベタと触られた気分。そのような事をされて黙っていられるほど、ヴェルトの育ちは良くないのだ。
「……っ」
このまま覆い被さられヴェルトの欲望で貫かれるのだと想像しただけで、カイラは身をゾクゾクと震わせた。
「ヴェルトさん……」
熱の籠った声で誘うように愛する人の名を呼んだカイラを、ヴェルトはひょいと抱き上げた。
「へ……? えっ、ここでやるんじゃないんですか!?」
「そうだよ、ずっとベッドじゃマンネリでしょ?」
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