139 / 141

カイラのクマ

「んふふーん♪ ふんふふーん♪ わなびー♪」  無事にカイラに迎え入れられたクマは、歌を歌いながらトテトテとカイラ邸の廊下を歩いていた。 「カイラきゅんは優しくて可愛くて……う~ん♡ クマってばしあわしぇ~♡」  「それに引き換え」とクマは幸せそうに緩んでいた瞳をきゅっと吊り上げた。 「シラガ頭はやっぱり好きくなーい。あのヒョロガリエイリアン、カイラきゅんの彼氏気取っちゃって!」  プリプリと怒るクマの前を、1匹のクモが横切らんと廊下を横断する。  闇夜を思わせる8つの真っ黒な瞳に、やけに細長い8本の足。虫嫌いならば遭遇しただけで確実に叫び逃げ出すだろう。 「あっ! むいむいさんだ~」  クマは興味津々といったふうに声を上げ、逃げるクモを両手で包み込んだ。 「ちゅかまえちゃ! ちゅかまえちゃ!」  某アニメ映画に出てくる、真っ黒な生き物を捕らえた少女の如く、クモを捕らえたまま廊下をトテトテと駆ける。 「これを~」  片手にクモを乗せ、片手でドアを開けたクマは歌を歌うように独白する。 「ヴェルトの部屋の~……バッグの中~へ~~♪」  口が巾着のように閉まるタイプの皮袋の中へ、そおっとクモを忍ばせた後すぐに口をキュッと縛った。 「ふーん!」  窓から差し込む光を背に受けるクマの顔が悪魔みたいだ。 「気ぃ済んだ!」  そして再び上機嫌に歌を歌いながら部屋を出て、廊下を渡り始める。  クマが今向かっているのは、カイラとヴェルトがいる寝室だ。2人で寝ているであろう所に間に割って入り、カイラの隣に寝ようと思ったのだ。 「……ッ……ぁ……」  カイラの声が聞こえ始める。寝室が近付くに連れ、声が鮮明に聞こえるようになった。 「あんっ♡ あっ♡ ……おぉ、っ♡♡」 「……ン?」  まるで発情期を迎えたネコのように鳴き続けるカイラに違和感を覚えたクマは、ほんの少しだけ寝室の扉を開けて中を覗き込んだ。  その向こうに広がっていたのは……クマにとってはあまりにも残酷な光景だった。 「ほらカイラ君、さっきまでリードさせてくださいとか、任せてくださいとか自信満々に言ってたじゃない」  柔らかなランプの光に包まれながら、カイラがヴェルトの上に跨り体を上下にゆすっているのだ。  カイラの騎乗位リベンジ戦。……カイラの淫れ方とヴェルトの余裕そうな表情からして、今回もきっと無理だろう。  強制的に大物を根元まで飲み込まされ、カイラは四肢を震わせながら懸命にヴェルトに雄の快楽を与えんと腰を振り続ける。 「やっぱりリード握るなんてカイラ君には100年早いんだよ」 「いやっ♡ いや♡ です……♡ 僕だってっ! 僕だってっ! おちんちん使いたいのにぃ……っ!」  まだ懲りていないのか。それともまた虐めて欲しいのか。カイラは萎えたままのティニーをぷるんぷるんと揺らしながら腰をヘコヘコと振る。  2人は今、カイラの提案で賭けをしているのだ。  決められた時間内に、もし騎乗位でヴェルトを射精まで導いたら、1度だけ攻守逆転……つまり、カイラがヴェルトを責め立てる事を許す。  導けなかったら、お仕置きする。 「いやだっ♡ お仕置き……おしおき♡ いやだっ♡」  時計に目をやったヴェルトは「時間切れだよ」と告げた後、挿入したままムクリと体を起こしてカイラを組み敷いた。 「残念だったね? カイラ君の負け」 「~~~~ッッ♡♡」  ヴェルトの正確なピストンを受けたカイラは、ものの数秒で雌の快感を味わされてしまった。 「んー、どうしようかな。カイラ君のお仕置き」 「んっ♡ いやぁ♡♡ いやぁぁっ♡♡」  決めた。とヴェルトは、まだ2人が冒険仲間だった頃のように人の心を懐柔する優しい笑みを浮かべて。 「10日間射精禁止」  と冷酷に告げたのだ。 「あ……あ……♡」  絶望に満ちた表情を浮かべ声を上げるカイラ。しかしエメラルドの瞳の奥に、甘美な光が灯ったのだ。 「初めてが5日。2回目が4日。それで分からないなら、倍の日数我慢させるしかないもんね?」 「いや……いや、です……♡」 「仕方ないよね? カイラ君が言い出した事なんだからさ」  恋人の最奥を精で汚して肉茎を引き抜いた後、ヴェルトは振り返り見物人の目を見て嫌な笑みを浮かべた。 「わわ」  いる事がすっかりバレていたのだと気付いたクマは驚きの声を上げたが一歩も動かない。……いや、動けないの間違いだ。 「はぁ……はぁ……ああっ♡」  2人は再び体勢を変える。扉の方を向くようにベッドに座り込むカイラを、ヴェルトが後ろから支えるような体勢だ。  扉の方にいる誰かさんに見せつけるような。 「流石に可哀想だから、最後に1回だけ射精させてあげるよ」  大きな手でカイラの目を覆い隠す。 「酷い事されてるのにさ。不思議だね? さっき以上に興奮しちゃってさ」  耳元で囁きながら、ヴェルトは空いている方の手でカイラの肉棒を慰め始めた。 「あっ♡ ヴェルトさん……きもちい……♡」 「そうだね、気持ち良いね? だけどカイラ君、これから10日はおちんちん気持ち良くなれないんだよ」 「う……うぅっ♡」  先走りが溢れ出し、ヴェルトの手を濡らしてゆく。 「ティニー泣いちゃった。可哀想に、カイラ君のせいで無駄撃ちすらできなくなっちゃうんだよ、カイラ君のせいで。毎日檻の中で大暴れするかもしれないね?」 「はぁ……はぁ……♡」 「辛いよ。呪いをかけられたカイラ君にとって、20日の禁欲に等しいんでしょ? 1滴も吐き出せず、ずーっと溜め込んで……毎日射精の事しか考えられなくなるだろうね?」 「あっ♡ あっあっ♡ う……♡♡」 「ん?もしかしてイきそうなのかい? 良いよ、最後の無駄撃ちしちゃいなよ」 「嫌です♡ まだ♡ まだ扱いてほし……あっ♡ ヴェルトさん♡ やめて♡ やめて……っ♡♡」  カイラの意思に反し、ヴェルトは絶頂に向けて手を動かし始める。 「自慰すら満足にできないへっぽこカイラ君の為にやってあげてるんだから感謝しなよ? ……ほら、イけ」 「イきたくない……のにぃっ♡♡ イっ……~~~~ッッ♡♡」  白濁を盛大に噴き上げ、カイラは禁欲前最後の雄の快楽に身を投じた。 「シーツ汚しちゃったね。でもお手伝い魔道具が来てくれたから、その子に洗わせようね」  呪いにより容赦無く貞操帯に囚われてしまったカイラは涙をこぼした。  屈辱だ。  それなのに……何故、既に貞操帯の中で甘く疼き始めているのだろう。 「ヴェルトさん……10日なんて無理です……」 「大丈夫だって。僕もいるからさ、頑張って我慢しようね」 「う……うぅ~~~~っ♡」  今にも泣きそうな表情を浮かべながら、カイラはヴェルトにすがるように口付けを交わした。 (……やっぱりクマ、シラガ頭の事好きくないよ)  愛するカイラが手籠にされる姿を見てしまったクマは、目を吊り上げ鼻の頭に皺を寄せた。

ともだちにシェアしよう!