145 / 151
帰宅
「ただいまー」
屋敷に戻ったヴェルトはリビングの扉を開いて声をかけた。
だが、そこにいたのはソファに腰掛け、くつろいでいるクマのみ。
「ドブネズミだけか。なんだ挨拶して損した! 後でネズミ駆除業者呼ばないと」
「なんだオマエ白髪ネギみてえな頭しやがってこのヤロー、その毛ぇむしって煮物に添えてやろうかしら」
出会って早々に罵り合う26歳ヴェルトとクマのぬいぐるみ。やはり2人の相性は最悪なようだ。
「あのさぁ文句言いたかったんだけどさ。ちゃんと掃除してんのかい?」
「ン?」
クマは小首を傾げた。
「僕のカバンの中にでっかいクモ入ってたんだけど」
「あっそ。クモしゃんかわいそーに。よりによってシラガ頭なんかのバッグに入っちゃうなんて、あーあ……」
クモを放り込んだ犯人でありながら、クマは頭を横に振って大袈裟に祈りを捧げた。
「それで。カイラ君はどこ」
「寝室にいるはずよ。カイラきゅん寝るって言ってたから。……起こすんじゃねーど!」
「はいはい、分かったからとっとと働きなよ。じゃなきゃその無駄にでっかい耳削ぎ落としてモグラ人形にするからね」
「ん゛あ゛あ゛!」
激昂するクマを無視したヴェルトは、寝室に向かい、ノックすらせず扉を開いた。
その先にいたのは、クマの言う通り夢の世界へと旅立っているカイラだ。
(……癒されるなぁ)
ただ眠っている。それだけなのに愛おしい。……愛おし過ぎてぐちゃぐちゃにしたくなる。
足音を立てぬようそおっと近付き、ヴェルトはベッドの前で腰を下ろしてカイラの顔を覗き込んだ。
(……寝てる顔なんか、フロイそっくりだ)
『当ててやろうか? 茶髪に緑の目……お前が好きになるの毎回そうだからな』
『無意識のうちにお前はアイツとあの女を重ね合わせてんだよ』
『何で……何で。俺は駄目でアイツなら良いんだよ……!』
(僕がカイラ君の事好きな理由って……やっぱり、フロイの姿をこの子に重ね合わせてるからなんだろうな)
今思い返せば。カイラと出会う前に付き合っていた彼女達も皆、フロイと同じ茶髪と緑の目だった。
まるでペットを亡くした飼い主が、亡くなったペットと似た容姿の動物を飼うように。
ヴェルトもまた、恋人と死に別れた事により出来た空洞を似た容姿の人間で埋めていたのだ。
(でも……それだけなのか? 僕がカイラ君を愛してる理由って……本当にそれだけなのか?)
思い悩んでる最中、カイラがうーんと唸った。
「うぅ~~ん……ぼく、カイラくん……」
「は? ……ふふふふふっ」
随分と間の抜けた自己紹介。どんな夢を見ているのかと、ヴェルトは肩を震わせ静かに笑う。
「そっか、カイラ君て言うんだね。可愛いお名前だね」
カイラが目を覚まさぬよう囁きながら頭をそっと撫でた。
すると、寝ていても安心感を覚えたらしいカイラは幸せそうに微笑んだ。
「多分、こういう所も好きなんだろうね。おやすみ、カイラ君」
ヴェルトは静かに立ち上がり、寝室を後にした。
ともだちにシェアしよう!

