4 / 21

1−12【星×陽🌺】甘えん坊は、どっち?

<概要> ・リクエスト:あおぞら様 ・カップリング:犀星×玲陽 ・テイスト:甘め。ほんわか。 ・その他:歌仙で玲陽が怪我しているとき。過保護犀星。 ――――――――――――――――――――  昼の光が明かり取りの窓から、やわらかく差し込む室内。  外はもう秋の終わり。かすかに空気はひんやりとしていたが、部屋の中は静けさと甘やかな気配に満ちていた。それは、痛み止めに焚いた香の香りのせいばかりではない。 「陽、こっち向いて」  匙を持った犀星が、じりじりと近づいてくる。 「……もう、自分で食べられます」  顔を赤くして、玲陽が半ば本気で抗議する。その手には、すでに持ちかけた粥の椀。ちゃんと自分で食べる準備をしていたのに、なぜか隣から、過保護全開の幼馴染が迫ってきた。 「だが、お前、朝から咳き込んでただろ。心配なんだ」 「……平気です。もう、歩くことだってできますし」 「だが、転びそうだったじゃないか。見てて冷や汗かいた」  玲陽は、気まずそうに顔を歪めた。 「だからって、東雨どのが見ている前で、おぶることはないでしょうに……」 「緊急処置だ」  どんな処置だ。  玲陽は匙を見つめた。差し出された粥の匂いは悪くない。ほんのりと生姜と薬膳の香りがする。体は確かに少し熱っぽくて、気怠さも残っている。それでも―― 「じゃあ……ひと口だけ」 「よし」  嬉しそうに犀星が微笑む。やけに誇らしげなのが気に入らないが、匙は口元へと運ばれてきた。  玲陽がそっと口を開くと、温かな粥がやわらかく舌に触れた。驚くほどやさしい味で、なんだかそれだけで眠くなってしまいそうだった。 「……熱くないか?」 「……うん」 「よかった。おまえには、辛い思いをさせたくない」 「そんな、大袈裟な」 「大袈裟じゃない」  くすぐったい空気の中で、ひと匙、またひと匙。  ふと気づくと、犀星が動かなくなっていた。匙を手にしたまま、うつらうつらと――そのまま、玲陽の膝に倒れかけてきた。 「ちょ、星?」  膝に頭を乗せられ、玲陽が慌てて呼びかける。  しかし、返事はない。  完全に寝ていた。  いつの間に……。  じっと見てみると、犀星のまつ毛が頬に影を落としていた。眠っているときは、いつもよりずっと幼く見える。けれど、その手だけは、しっかりと―― 「……手、離してないし」  玲陽の右手は、犀星の手に包まれていた。寝ているくせに、意外にしっかりと握られている。 「……本当に、しかたのない人」  ぽつりと呟いて、玲陽はそっと笑った。  その指を握り返して、そっと自分の頬を寄せた。 「でも、私も相当、どうしようもないか」  甘えた声は、風に溶けて、ふたりだけの午後にしずかに消えていった。 ―――――――――――――――――――― はい、甘くいってみました! 星ちゃんは絶対、玲陽にベタベタなはず! いや、「はず」じゃなくて、ベタですから! (恵)

ともだちにシェアしよう!