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1−12【陽×星🔥】闇は闇を抱きて光となる
<概要>
・リクエスト:非公開
・カップリング:玲陽×犀星
・テイスト:執着。ダーク。嫉妬。独占欲。
・その他:陽の狂気っぽい支配全開!
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何度も目を開けては、目の前の人の姿を確かめる。
それでも足りないと思うのは、十年という空白のせいだろうか。それとも、身体の痛みと同じくらい、心の奥底が渇いているせいか。
――星。
この名を喉の奥で幾度となく唱え、けれど声に出すことはできなかった。
ただ息をするだけで肋が痛む。背中が灼けるように重く、ひとつ体を傾けるだけで、血の気が引いていく。
涼景には、命があることのほうが奇跡だとまで言われた。動かすな、声を出すな、気力を削るな。
だがそんな忠告など、何の意味もなかった。
目を覚ませば、彼がいるのだ。
眠っている。けれど、手は握ったまま。
寝返りも打たず、ただ自分の方を向いたまま、息を殺すように眠る彼の姿に、胸が引き裂かれる。
こんな顔を、誰が見せたのだ。
十年前に別れたきりの、あの力強く繊細に、自分に手を伸ばしてくれた少年は、こんな風に眠る男になったのか。
どうして、もっと早く会えなかった。
喉が焼ける。
涙すら出てこない。泣き尽くしてしまったのか、それとも涙を流す余裕すら、今の身体には残っていないのか。
そっと手を伸ばす。
痛みを堪えながら、腕を動かす。
それだけで、内臓が悲鳴を上げる。だが、止まれなかった。止まりたくなかった。
――この顔に、触れたい。
触れて、確かめたい。
本当にここにいるのか。自分の夢ではないのか。
いや、夢だったならばどんなに良かったか。
こんな姿を見せたくはなかった。惨めな、弱り果てた姿で、再会したくなどなかった。
「……っ……星……」
名を呼ぶと、指先が震えた。
彼はまだ目を閉じている。
睫毛の長さまで記憶していたはずなのに、実物は記憶よりもずっと美しい。
頬に触れ、そっと撫でた。
温かい。
この温もりを、自分は十年も知らなかったのか。
十年の間、何をしていたのだ。
この手に触れることもなく、この目を見ることもなく、どれだけの夜をひとりで過ごしたか。
狂いそうだった。
いや、きっと、もう狂っている。
「……星」
震える唇を寄せる。
声にならない嗚咽を噛み殺しながら、彼の頬に、そっと口付けた。
それだけで、全身の皮膚が震えた。
瞼にも、もう一度。
どうか、起きないでほしい。
目を開けたら、自分のこの浅ましい姿に、嫌悪するのではないか。
こんなにも、あなたが好きだ。
こんなにも、あなたを求めている。
なのに、それを言葉にすれば、全てが壊れてしまいそうだった。
抱きしめたい。
力の入らない腕で、必死に体を起こし、彼に覆い被さる。
ほんの少しでも、密着したかった。
ひとつになどなれなくていい。だが、ひとつの布の下で、同じ息をしていたい。
君がいなかった十年を、返してほしい。
笑った顔を、泣いた顔を、眠る姿を、全て、見逃した。
自分が失ったのは、肉体の自由ではない。犀星との時間だった。
その全てを、取り返したい。
この腕に閉じ込めて、もうどこにも行かせたくない。
「はなしたく……ない……」
頬に額を寄せ、髪に顔を埋める。
微かに彼の匂いがした。
血の匂いも、薬の匂いも混じっているのに、それさえも懐かしかった。
――どうしてあなたは、そんなに優しい顔で、眠るのだ。
もう少しでも長くいたら、自分はきっと、どうにかなってしまう。
こんな身体でなければ、きっと――もっと強く抱いてしまった。
引き裂いてでも、あなたを縛りつけていただろう。
それほどまでに、あなたが好きで、好きで、たまらない。
その苦しさに、耐えられなかった。
愛している。
けれど、愛しすぎるこの想いは、優しさに昇華できるようなものではなかった。
憎しみに似ているほどの執着。
他の誰にも見せたくない。触れさせたくない。
犀星が呼吸するたび、その息すら、自分のものにしたくなる。
それが狂気だと、自分でもわかっている。
けれど、どうして止められようか。
十年も待たされたのだ。
犀星が手を伸ばしてくれなかった十年、どれほどの苦痛だったか、知らないだろう。
――わかっている。
今こうして、そばにいてくれるだけで、救われていることも。
けれど、それでは足りないのだ。
欲しい。
欲しくてたまらない。
あなたの全部が欲しい。
身体も、声も、記憶も、心の奥底の秘密までも。
全部、自分のものになってほしい。
「……星……」
かすかに唇が動く。
その声に、彼がわずかに眉をひそめた。
いけない。起こしてしまう。
――だが、それでもいい。
目が覚めたとき、私があなたを抱きしめていることに、気づいてほしい。
たとえ責められても、哀れまれても、それでいい。
それでも、自分は、あなたをこの腕から離したくない。
もう、はなさない。
あなたを二度と、どこにもやらない。
いっそこのまま、夢のように目覚めなければ――。
そんなことを願いながら、玲陽は震えるまま、犀星の髪に、もう一度、そっと唇を落とした。
――ああ、足りない!
もっと優しい場所へ。
闇の中でも、はっきりと、犀星の唇の輪郭がわかった。
名も知らぬ人と、止むに止まれぬ理由で繰り返してきた、口付け。いや、それらしきもの。
本当に交わしたい唇があるというのに、触れることができないという現実。
どんな熱を持つ? どんな柔らかさで、どんなふうに私に応えてくれるのですか?
欲しい。知りたい。自分だけのものに――
焦がれ続けて、それでも叶わない思いは、玲陽に思いもしない衝動をもたらした。
そっと首を伸ばし、瞼に口付ける。
それは甘く、優しいだけの。だが、少しそのままで、やがて、もう少し奥へ、玲陽は動いた。
舌先でまつ毛を撫でる。
閉じられた瞼の隙間へ、尖らせた舌を差し入れた。
微かな寝返りの気配。
玲陽は、ぎゅ、と腕に力を込めた。もう骨が軋むほどの痛みに変わっていた。だが、離すものか。こんなにも近くに、ようやく手に入れた温もりを――今さら手放せるわけがなかった。
涙の味は甘かった。さらさらと舌の上に溢れて、たまらず、片目にしゃぶりつく。
びくん、と犀星の体が拒絶を示した。
――お願い!
玲陽は願った。
「……陽?」
低く、かすれた声がすぐ横から聞こえる。
心臓が跳ねた。
逃げられる。
そう本能が囁いた。だが、逃がすものか。
痛むはずだ。いつしか、犀星の指が、玲陽の腕を強く掴んでいた。
身を引く代わりに、ただ、強く。
涙が惜しげもなく玲陽の喉を潤し、同時に、犀星の指の力が強くなる。
――ああ、あなたという人は――
たまらず、玲陽は顔を上げる。
視界が滲んでいた。熱のせいか、涙のせいか、自分でもわからなかった。
けれど、確かにそこにある、犀星の目を見た。眠気と、驚きと、そして――哀しみが混ざるような複雑な眼差しだった。
「……突然だな、おまえは……」
玲陽は答えられなかった。
他に言うべきことがあるのではないのか?
自分がしたことは、異常な行為だ。
非難されても、叱られても、嫌われても、受け入れるしかない蛮行だ。
だというのに――
犀星はどこまでも穏やかだ。
――その目だ。その目で、私を、私だけを見て!
血に濡れた爪でしがみつくような執着を、受け止めてほしかった。
拒絶されても、軽蔑されても構わなかった。
ただ――
「どこにも、行かないで……」
泣き声に似ていた。だが、涙は流れない。
それほど、心がひび割れて乾いていた。
犀星は何も言わなかった。
代わりに、そっと玲陽の背に手を添えようとした。
だが、それに触れられる前に、玲陽は自らその手を奪い、爪が食い込むほどの力で掴んだ。
「お願いです、星……このまま、ずっとそばにいて」
声が震える。苦しさではなく、感情の渦が喉を締め上げる。
喉の奥に言葉では言い表せないものが渦巻き、悲鳴に変わりそうだった。
「あなたが、いなくなるのが怖い……もう、ひとりになりたくない……」
心臓が、脈打つたびに壊れていく気がした。
理性が軋む。
いっそ壊れてしまえばいい。
この人を、手足を斬ってでも自分のそばに置けるのなら――そう考えてしまうほどに。
犀星は黙っていた。
ただ、静かに、玲陽の髪に触れた。
震える額を支えるようにして、顔を寄せた。
優しい手だ。
玲陽のつぶやきが、闇に溶けるように響いた。
「あなたが……あなたがいないと、私はもう……誰にもなれない……」
壊れかけた声が、暗い部屋に吸い込まれる。
あなたのいない日々を、もう一度繰り返すくらいなら、いっそ、この手であなたを――
「もし、またいなくなったら……私、あなたを殺します……」
静かに、けれど、確かに言った。
言葉は氷のように冷たく、そして真実だった。
犀星の手が止まった。
玲陽は、そっと笑った。涙も血も枯れた心の奥で、笑っていた。
もう、まともではいられない。
それでも――それでも、自分はこの人を愛している。
その事実だけが、魂を支えていた。
犀星は何も答えなかった。ただ、長く、息を吐いた。
玲陽の背に手を回し、そっと体を引き寄せる。
そして、耳元で呟いた。
「どこにも行かないよ。……おまえが、俺をこんなふうにしたんだ」
その声に、震えが走った。
犀星の中にも、同じ深さの闇があることを、ようやく知った。
互いに傷つけ、互いに喪い、再会の代償として――狂気を分かち合う。
それでも、もう構わなかった。
この世界に、二人だけが堕ちていけるなら。
――それでいいと、思ってしまった。
――――――――――――――――――――
本編では、犀星の方から「陽大好き!」オーラが大量噴出されています。
でも、それってなんか、子供が「ママ好き!」っていうような感じ。
陽の方は、大好きな人を人形に変えてでも部屋に閉じ込めておく的な狂気がある気がするのだ…
そして、星も「一緒にいられるなら、それでいい」になりそうなんだわ。
そこが、このふたりの根底にある。うんうん(勝手に納得)
(恵)
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