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1−12【涼景×東雨🌺】甘えたい夜
<概要>
・リクエスト:みどりねこ様
・カップリング:涼景×東雨
・テイスト:甘やかし。素直になれない東雨。
・その他:玲博に捕まったあと、涼景が東雨のもとを訪ねて……
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月は高く、静かな光を中庭に落としていた。
秋の夜の風は冷たさを増し、痛めた体にはこたえる。東雨は、いつもなら笑顔を向ける庭の橘の木を睨みつけながら、震える指先で膝を抱えた。
屋敷の一室、木戸の向こうでは誰かの足音が遠ざかっていく。犀星に救い出され、屋敷に戻った直後から、たくさんの人が入れ代わり立ち代わり様子を見に来た。だが、今はもう誰もいない。体に打ちつけられた衝撃の痛みも、心に残る怒りも、思い出したくなくても思い出してしまう。
傷の痛みよりも、ひとりであることの方が、ずっと怖かった。
「……馬鹿みたいだな」
東雨は自分に吐き捨てるように呟いた。
泣いてなんか、やるものか。あんな奴のせいで。
そこへ、不意に戸が軽く叩かれた。
「入っていいか」
聞き慣れた、少し低めの声。無愛想で、ぶっきらぼう。東雨は顔を上げた。
「……どうぞ」
戸が開き、涼景が姿を現した。手にした油灯の光を受け、赤みのある長い髪が揺れる。
「寝てるかと思ったが……起きてたな」
「寝れませんよ、こんな夜に」
東雨は吐き捨てるように言いながらも、どこかほっとしていた。涼景は東雨の横に座ると、持ってきた小さな包みを差し出す。
「傷、冷やしておけ。腫れてる」
「薬、じゃないんですか?」
「薬はもう塗ったろ。今は冷やせば十分だ」
涼景は言いながら、東雨の肩に手を添えた。東雨はぴくりと体を強張らせたが、逃げはしなかった。
「……俺にかまわなくていいですから」
「はあ?」
「俺は、ひとりで、平気です」
……そういうの、ムカつくんだ。
涼景は目を細めた。東雨の頬には、赤く腫れた傷跡が浮いていた。
「……悪かったな」
「……俺は、子供じゃないです」
その言葉を聞いて、涼景は鼻で笑った。
「子供じゃない奴は、泣くの我慢して唇噛んだりしない」
「っ……見てたんですか」
「目に見えてる。誰でもわかる。俺だって、馬鹿じゃない」
言い返そうとして、東雨は言葉に詰まった。涼景の声には、怒りも呆れもなかった。ただ、静かに、近くで寄り添うような響きだけがあった。
「ほんとに……腹が立ちます」
「俺がか?」
「はい。気安くしてくるくせに、本当のことは何にも言わないでしょう? 俺が何を考えてたって、黙って笑って……」
東雨は、ひとつ息をついた。
「だから、わかんなくなる……大切にされてるのか、されてないのか……涼景様にとって、俺ってなんなんだよって」
いつもは丁寧な、東雨の口調が乱れた。
静寂が落ちた。
ややあって、涼景は、ぽつりと答えた。
「そうだな……弟、みたいなもんだと思ってた。気がついたら、気になってて。放っとけなくて。おまえが笑ってると、こっちも気分がいい」
「それって、ただの気分屋……」
「そうかもな。でも、おまえがいなくなるのは、嫌だって思った」
東雨は、口を噤んだまま、涼景の顔をじっと見た。
「……痛い」
「どこが?」
「背中。あと、腰と、肩。……あと、なんか、泣きたくなるくらい、胸んとこが痛い」
そう言った東雨に、涼景は包みの中から布を取り出し、そっと東雨の背に当てた。
「冷えるぞ。あっためろ」
「逆じゃなかった?」
「いいから」
涼景の手は、大きくてあたたかかった。
東雨は、肩をすくめた。
「……涼景様」
「ん?」
「いまだけ、子供扱いしてもいい。……ちょっとだけ、その……」
涼景は一瞬、目を見開いたが、すぐに苦笑した。
「どうせ、すぐまた生意気になるくせに」
「だから、いまだけ」
東雨は、涼景の膝に頭を乗せた。
心臓の鼓動が、落ち着いていく。
「痛いの、全部どっかいけばいいのに」
「……まかせろ、全部。俺が追っ払ってやる」
部屋の外では、風が竹の葉を鳴らしていた。
東雨の呼吸が、ゆっくりと安らいでいく。
その様子を見ながら、涼景はふと、自分の手が東雨の髪を撫でていることに気づき、わずかに頬を赤らめた。
けれど、止めなかった。
ひと晩くらい、こうしていてもいいだろう。
守るべきものがいることが、こんなにも胸を満たすなんて。
その夜、涼景はひとことも愛を語らなかった。
東雨も、感謝の言葉を口にしなかった。
けれど、誰よりも深く、互いを必要としていた。
夜が明けるまで、東雨は涼景の膝の上で静かに眠り続けた。
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涼景&東雨、これは公式カプなんで、いくらでもいけまする😐
でも、素直になれるのはお互いにずっと先かもね。
両片思いでずるずるやっててください。
ばちっとかみ合ったら急展開になる二人❤️
(恵)
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