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1−12【陽vs涼景→星☘️】騒がしい朝の幻想

<概要> ・リクエスト:森の木の実様 ・カップリング:玲陽vs涼景→犀星 ・テイスト:コメディ。ぶっとんだ感じで! ・その他:どちらがどれだけ犀星が好きか、犀星に愛されているか対決。 ――――――――――――――――――――  朝の風が、明かり取りの隙間からゆるやかに吹き込んでくる。  庭先では早起きの鳥が鳴き、犀家の一室は静寂に包まれていた。……ただし、ある一点を除いては。 「――だから! 兄様は昔から私に甘かったんです! 子どもの頃からずーっと! わかります? そのへんの薄っぺらい付き合いとは年季が違うんです!」 「ほう。なるほど。子どもの頃の“甘かった記憶”か。俺は毎日、犀星と行動を共にしているぞ? 最近の星のこと、おまえよりずっと知っている」  淡々と返す声には一切の無駄がない。右近衛の筆頭指揮官、涼景。冷静沈着で知られる彼が、珍しく声を張っていた。 「十年の空白は怖いものだ。星は、最近、粥に刻んだ生姜を好むようになった。知っていたか?」 「……ぐ、そんなの、体が冷えたからでしょう!? 一時的な趣向です! 兄様は昔から甘いものが好きでした! 小豆粥なんて、私が作ってあげたら三杯はおかわりしましたよ!?」 「今は塩味粥が一番好きだな。塩梅の微調整まで俺がやっている」 「なっ……! 兄様に塩対応とか、どういうことですか!?」 「“絶妙な塩加減”という意味だ。ちなみに、昨夜は俺の背中を枕にして寝ていたな」 「ッッ!!??? いまなんて!?」 「俺の、背に、もたれて、寝た」 「いやいやいやいや、それ絶対偶然でしょ! 疲れて倒れた先に、涼景様の背中があっただけです!」 「どうかな。ずいぶん安らいだ寝息だった」 「それをドヤ顔で言うなああああああッ!!!」  玲陽の絶叫が、朝の空気に響き渡る。  ――牀の傍ら。主役のはずの犀星はというと、清らかな寝顔を見せて眠り続けている。  額の赤い炎型の刺青は、光を反射してほのかにきらめいていた。起きる気配はまるでない。もはやこの場は、二人の討論舞台と化していた。 「いいですか? 兄様は、十年前、私に、“初めて”を捧げてくれたんですよ」 「物証は?」 「この口が覚えてます!!!」 「証拠能力に乏しい。それに、俺たちは共に命のやり取りをした仲だ。水辺で矢を受けた時、星は自ら俺の出血を止めてくれた」 「その程度で! 私は、兄様の寝汗を拭いた布を、三年取っておいたことあります!」 「変態か?」 「愛情の証ですッ!!!」 「では、星が眠る前に話していたことを教えてやる。『涼景、疲れた。おまえがいると落ち着く』と」 「私には! 『陽がいれば、大丈夫だ』って! 顔をくしゃってして笑って! うう、あの笑顔で……」 「おい、泣くな」  二人の攻防は、谷底に響く木霊のように延々と続いた。  目撃者は――熟睡中の犀星ただ一人。  いや、一人ではなかった。東雨が廊下の陰からこっそり顔を出して、巻き込まれまいと後退していった。 「そもそも! 兄様にとって私は“いとこ”ですよ!? 血縁ですよ!? 生まれたときから一緒! その親密さに勝てるんですか!」 「だからこそ、踏み込みづらいということもあるだろ。俺は他人だからこそ、恋愛対象にふさわしい距離感と言える」 「れ、恋愛……っっ!? じゃあ兄様が私の手を取って『もう、離れたくない』って言ってくれたのは!? なに!? なんのつもりだったというんですか!?」 「回復を祈っていたのでは?」 「それ言ったの、昨日の昼! いまの今!」 「俺は星の隣で五日間、寝ずに付き添ったことがある」 「私なんて! 十年間、ずっと夢に出てきましたよ兄様が!」 「夢は主観だ。現実で寝ずに傍にいるほうが勝る」 「そんなことありません! 兄様は、私の手を握る時、少しだけ力を込めるんです」 「……握ってもらったこと、ない……」 「……あ」  一瞬の沈黙。ふたりの間に、気まずい空気が流れる。  そして次の瞬間。 「こ、こらぁぁぁああああああああ星ぃぃぃぃぃぃいいいいい!!! 俺のことはどうでもいいのかああああ!!」  涼景の怒声が屋敷を揺るがした。 「寝てる相手に叫ばないでください!」 「じゃあ起きたら聞くか!? 星に『どっちが好きか』聞くか!?」 「当然でしょう」 「望むところだ」  ふたりは、ぴしっと睨みを効かせた。  寝ている犀星を中央に挟み、まるで裁判の判決を待つかのような静けさ。  ……しかし。 「ん……う……」  もぞ、と、犀星が身じろぎした。  二人はほぼ同時に顔を寄せる。 「兄様!? 目が覚めましたか!?」 「星、何か飲みたいものはあるか?」 「兄様! 手を握ってください!」 「いきなり何を言っているんだ!」 「いいから黙っててください!! 兄様は私と!」 「いや、近衛として俺が!」 「うるさいっ……」  ぼそ、と。  眠りの底から、犀星の声。 「二人とも……静かにしてくれ……夢の中でもうるさい……」  そして――再び寝息が立った。  その瞬間、玲陽と涼景は、きっ、と互いを見据える。 「――続けますか?」 「……上等だッ!」  秋の鳥が、今日二度目の鳴き声を上げた。  犀家の朝は、まだまだ静かになりそうもなかった。 ―――――――――――――――――――― ぶっ飛んだやつ、とのことだったので、絶対にないな!という勢いでぶっ飛んでみました。 陽と涼景が本気勝負をしてしまうと、それだけで世界が揺れる気がします。 本編の涼景は、グッと想いを殺すタイプなので、全面戦争にはなりませんが、じりじりした瞬間、とかはあると思うなぁ。 陽が超弩級のやきもち焼きなんで、その場では星と涼景の仲良しをにこにこして見守り、あとで星に3倍返しを求めそうだ。 (恵)

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