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1−12【星×陽☘️】だいじの順番

<概要> ・リクエスト:非公開 ・カップリング:犀星&玲陽 ・テイスト:ほんわか。甘いもの。 ・その他:会話劇。とにかく玲陽大好きな犀星。みんなから愛されても、玲陽のことしか考えていないのが尊い! ――――――――――――――――――――  秋の風が渡る犀家の回廊に、ひとりの親王が腰掛けていた。  犀星は膝に両手を乗せ、庭の畑を眺めながら、じっと考え込んでいる。その顔はどこかしら、深刻そうで、けれどどこか愛しげで。 「……一番って、なんだろうな」  ぽつりと、口をついて出た言葉。 「陽を一番にする。……それは、もう、当然で。ぜったいに揺るがないが」  言葉を切り、少し考え込む。 「だが、陽は、俺が一番だと言う。ならば俺も、自分を一番にしないといけないのか?」  眉が寄る。悩ましい。他者にはむしろ、どうでもいい問題。 「わからない……」  そのときだった。 「……なにを唸ってるんだ」  ぬっと現れた影に、犀星が顔を上げる。  涼景だった。手には粥の入った盆を抱え、いつものように涼しい顔。 「……その顔。真剣な悩みでもしてたのか?」 「……まぁな」  犀星はあっさりと答えた。 「陽を一番に思うのは当然として、自分のことも大事にしたほうがいいと言われたんだが、自分より陽のほうが大事だから、自分を一番にしたら、陽を二番にすることになる……」 「…………」  しばし沈黙。 「……おまえは、なにと戦ってるんだ」  呆れたように涼景が言った。  だが、気になる。 「じゃあ、俺は……何番目なんだ」 「え……」  犀星は本気で考え込んだ。  そして、しばらくしてから、申し訳なさそうに、 「三十七番目くらい、か……」 「……見栄をはるな。おまえ、そんなに、友人、いないだろうが……」  涼景は、ほっとしたような、バカにしたようなため息をついて、さっさと歩き去った。  犀星は再び畑の胡瓜を数えながら、同じ問題に取り組んだ。  次に、通りかかったのは、犀遠だった。 「ほほう。こんなところで考え事とは、風流だな」 「……父上、お聞きしたいことが」  またしても、犀星は真顔で悩みを語り始めた。  犀遠は途中で首を傾げ、ついには苦笑してしまった。 「なるほど。さすが、おまえらしい悩みだな」 「どうするべきか、わからず……」 「ふむ……陽を一番にしているなら、それでいいではないか」 「俺も、そう思っていたのですが……」  玲陽に『私を大事に思うなら、それ以上に自分を大切になさってください』と言われたことを伝える。 「なるほどな」  犀遠は目を細めると、ふっと面白そうに笑った。 「……で、私は何番目だ?」 「……四十一番目」 「ほう。それは随分、下の方だな?」 「俺のなかでは高いほうです」  犀遠は笑った。声を上げて、心から愉快そうに。 「それは光栄だ。よし、安心した。では私はこれで」  楽しげに背を向け、ひらひらと手を振って去っていく。 「……父上の寛大さは、見習わねば……」  その直後。 「若様、なにをそんなに考えこんでるんです?」  ぴょこりと顔を出したのは、東雨だった。  元気よく、しかし遠慮がちに、きらきらとした目で犀星を見つめている。 「東雨……意見を求めてもいいか?」  またしても、犀星は真剣な顔で同じ話を繰り返した。  聞いていた東雨は、途中で口をとがらせた。 「うう……それってつまり、俺のことは、あんまり考えてないってことですか?」 「え?」 「じゃあ、俺は……何番目ですか?」 「…………」  犀星が考えている間に、東雨がじりじりと前のめりになる。 「二十四番目?」 「やった!!!」  東雨は軽く飛び跳ねた。 「涼景さまに勝った!! 侶香様にも勝った!!! やった!!」  ずい、と拳を握りしめ、天を仰ぐ。 「よぉし、次は十番台! いや、三番台だって夢じゃない!!」  走り去っていくその背中を、犀星はぽかんと見送った。 「……なんなんだ、あれは……?」  さて。悩みは、まだ続いている。  結局、答えが出ない犀星は、部屋で眠っている玲陽のもとへ向かった。  玲陽は、穏やかな寝息を立てている。  けれど、その気配に気づいたのか、目を細めてこちらを見る。 「……星……?」 「陽」  布団の傍らに座り、顔をのぞきこむ。 「……陽は、どうして、俺を一番だと思ってくれる?」  思わず漏れたその言葉に、玲陽は少し考えるそぶりを見せた。 「……一番とか、二番とか、あんまり考えたことはないですが」 「え?」 「一番じゃなきゃ嫌、って思うのは、たぶん、まだ相手のことを信じきれてないから。星は、どこにいたって、私のそばにいるんでしょう?」  すう、と指が犀星の髪に触れる。 「だったら、何番目でもいい」  玲陽は囁く。 「あなたがいれば、それで、十分」 「…………」  ぽろり、と、犀星の目から涙がこぼれた。 「やっぱり……おまえは……」  玲陽はそっと、震える犀星の頭を撫でた。  ―一番も二番もない。俺には、『陽だけ』だ。  結局、自分は何を悩んでいたのか。   迷いの霧を抜け出した犀星の顔は、晴れやかだった。 ―――――――――――――――――――― どこまで行っても星には「陽ちゃんバカ」でいて欲しいですね。 本人は真剣、周囲にとってはどうでもいい。 そんな悩みを抱えられること自体、幸せの証拠! (恵)

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