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外伝 狂戯〜【涼景→星🔥】秘夜一味

<概要> ・リクエスト:非公開 ・カップリング:涼景×犀星 ・テイスト:切ない。危うい? シリアス ・その他:原作ではないかもしれませんが、キスまで ――――――――――――――――――――  夜風が残暑の熱気を僅かに攫い、紅蘭の空気に冷ややかな香りを加えていた。月明かりが障子越しに射し込み、犀星の屋敷、瑞祺堂の奥座敷を淡く照らしている。  今夜も涼景はここにいた。深紅の袍の袖をゆるりとたくし上げ、盃を軽く揺らしながら、じっと対面の犀星を見つめている。その視線は静かで、けれどどこか熱を帯びていた。二人の間を満たすのは、会話よりも沈黙だった。酒と夜風、そして言葉にならない感情が漂っている。  犀星は白地に淡青の文様をあしらった質素な衣をまとい、椅子に浅く腰掛けている。長い指先で額を押さえながら、酒の香りに混じる夜の空気を吸い込んだ。目元には疲労が滲み、しかし瞳の奥にはまだ醒めない光が宿っている。夜更けまで続く会話に少し疲れたのか、その表情はどこか緩んでいた。  衝立の裏では、東雨が眠そうに座り込み、様子を伺っている。侍童として二人の間に漂う緊張を感じないわけにはいかなかった。月明かりが廊下の木目を照らし、東雨の影を細長く映し出す。 「……そんなに若様が好きなんですか?」  小さなため息と共に東雨が呟くと、衝立ごしにその声が涼景の耳に届く。 「悪いか?」  返事は、わずかに笑みを含んでいた。  東雨は衝立に額を押し当て、頭を振る。あの無表情な将軍が夜な夜なここまで足を運ぶ理由は、誰が見ても明らかだった。  卓上の酒器が満たされるたび、静かな会話が途切れ途切れに続く。戦況の話、都の噂、庭に咲いた新しい花のこと。だが、二人の間には言葉以上の何かがずっと渦巻いていた。 「……涼しい夜だ」 「ああ」 「こんな夜は、眠るには惜しい」 「明日も早いのだろう?」  犀星の声は微かに笑ったようにも聞こえたが、その瞼は重くなりつつある。深い青の髪がかすかに揺れ、盃が卓に置かれた。 「…………」  不意に犀星は顔を伏せ、肘を卓につく。眠気か、酒の回りか。その隙に、涼景がゆっくりと手を伸ばした。指先が犀星の頬に触れようとする。  低く、鋭い声が降った。 「殺されたいか?」  涼景の指がぴたりと止まる。息を詰める静寂。 「…………」  一拍置き、彼は手を引こうとした。だが、その動きは途中で止まる。胸の奥でくすぶる想いが、彼を縛り付けていた。 「殺されてもいい」  囁くような声は、夜風よりも冷たく、同時に熱を孕んでいた。  ゆっくりと、犀星の薄い唇に涼景の唇が重なる。柔らかく、しかし確かに触れた感触。  犀星は瞼を閉じ、抵抗も応じもせず、ただ微かな呼吸を漏らした。涼景の酒の香りが鼻先をかすめ、その味が唇に伝わる。  苦い。  焦げたような苦味が、舌の上に残る。涼景の手が犀星の頬に沿い、親指で耳元の髪をなぞった。触れるほどの距離にある鼓動。涼景の鼓動は異様に速い。犀星のものは、ひどく静かだ。 「……お前は、どうしていつも……」  犀星が低く呟く。 「一途だ」 「一度決めたら、引けない」 「愚かだな」 「それでもいい」  唇が離れる。だが、涼景の手はまだ犀星の頬にある。指先が微かに震えていた。 「どうして、俺にここまで執着する」 「……理由を知りたいか?」 「今夜くらいは、答えてみろ」  涼景は視線を落とし、しばし言葉を探す。そして静かに答えた。 「俺がずっと焦がれていたもの……その強さが、おまえにはある。」  犀星は目を閉じる。自分の知らない葛藤が、涼景の過去に渦巻いている。 「二度はない」 「わかっている」  涼景の声は、誓いのように低く響いた。卓上の灯がわずかに揺れ、夜風が欄間を抜ける。ひやりとした空気が二人の間に割って入った。  やがて犀星は立ち上がり、涼景の肩を通り過ぎる。僅かに香の匂いを残し、彼は夜の廊下へ消えていく。 「……もう遅い。東雨が煩い」  衝立の向こうの東雨は聞こえないふりをして息を殺している。だが、心臓の高鳴りは本人にも止められなかった。彼は廊下に視線を移し、消えた犀星の背に思いを馳せる涼景の横顔をそっと見た。  涼景はひとり残された席で、冷めた酒を飲み干す。盃の中にも、唇に残る味にも、未だ苦味が残る。  夜が深まっていく。廊下の先で、犀星の足音が静かに消えていく。涼景の胸には焦がれる想いと、叶わぬことを知りながらも諦めない決意が、さらに深く根を下ろしていた。  それは、二人だけの秘密の夜。決して明かされることのない、ひりつくような記憶になった。  けれど涼景は、この苦味すら甘美だと思った。いつか、この夜を笑って思い出せる日が来るだろうかと、ひとり問いかけながら盃を重ねる。 ―――――――――――――――――――― 涼景は絶対に犀星に手を出せない(一番大事なものから逃げる)やつなので、完全アナザーストーリー! でも、だからこそ、書きたいのが二次ってもんよね! だってだって、そうなってもおかしくないふたり、で間違いないし。 これ、蓮章と玲陽が知ったら、修羅場だね(^_^;) (恵)

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