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1−14【涼景×星🔥】後悔と抱擁と
<概要>
・リクエスト:雑穀クッキー様
・カップリング:涼景×犀星
・テイスト:切ない。しっとり。接触あり系!
・その他:すべてが終わって、ぐったりしている犀星に、涼景の優しさがささる話。
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夜気は、ひどく冷えていた。
庭の奥にある小さな石灯籠の傍で、犀星は膝を抱えて座っている。白い外套が膝下で丸まって、彼の細い体を隠すように覆っていたが、肩が時折、わずかに震えているのがわかる。
涼景は、気づかれぬよう息を殺したまま、廊下の影に立っていた。
月明かりが淡く庭を照らし、犀星の横顔に細い光の線を落とす。頬が濡れていた。
(……また、泣いているのか)
涼景は喉奥がひりつくように痛んだ。
犀遠の死。その重みは自分も等しく背負っていた。憧れだった。あの背中に追いつきたかった。
だが、何もできなかった。救えなかった。
そうして今、同じ痛みの中でひっそり泣く犀星の姿が、涼景の胸を千々に裂いた。
彼は一歩、庭に降りた。
小石が靴の下で音を立て、犀星がはっと顔を上げる。
その瞳には涙が残り、しかしすぐに彼は表情を整えようとした。
「……涼景」
声はいつもの調子だったが、掠れている。
涼景は、そっと近づき、犀星の前に跪いた。
「おまえは……ひとりで泣くな」
「…………」
犀星はゆっくり首を横に振った。否定とも肯定ともとれない、切ない眼差しを、庭の隅に向ける。その細い喉元が月光を受けて淡く光る。
気配に気づいた時、少し、ほっとした自分がいた。
涼景は黙って、犀星の外套の裾に触れた。冷たい。
庭の夜気が、彼の体温を奪っている。
「冷える」
「……そうだな」
「戻ろう。おまえにまで倒れられてたまらない」
「……涼景」
犀星は一瞬、何かを飲み込むようにして視線を落とした。
「悔しい」
「……救えなかったことが?」
「それもある。だが……」
犀星は震える唇を噛んだ。
「見て……欲しかった。俺たちが、これから、生きていく姿を……誰より、誰より、父上にっ……」
涼景は、抗えない衝動に背を押された。
無言で犀星の肩に手を添え、そのまま抱きしめた。
驚きにわずかに身を強ばらせた犀星が、けれど拒まなかった。
「涼景……」
「黙ってろ」
低く、掠れた声だった。
「……黙って、いてくれ」
犀星の背は、思った以上に華奢だった。
鎧を纏わず、剣を持たず、ただひとりの人としてそこにいる。
その温もりが、涼景にとっては痛いほど愛おしい。
「守り切れなかった……何もできなかった」
涼景の声が震えた。
「おまえの姿、どれほど、楽しみにしていらっしゃったか……その未来を、見せて差し上げたかった」
犀星は、涼景の背にゆっくりと手を回した。
「おまえのせいではない。誰のせいでもない。ただ……もう少し、俺が強ければ」
「おまえは強い」
抱く腕に力がこもる。
「だから、いつも、泣くことができる。超えられるから、泣ける」
それは、涼景にはできないことだった。
犀星は、流した涙の分だけ、強くなれる人だ。
自分にはできない、その生き方を、支えたいと強く願った。
抱擁は、やがてそっと頬を寄せる動きに変わった。
涼景の額が犀星のこめかみに触れ、長い吐息が絡まる。
「泣け、だが、俺の前だけにしろ」
涼景の唇が、そっと犀星の髪に触れた。
それは誓いのように静かな口付けだった。
「陽には……」
「…………」
やがて犀星の肩が細かく震え、彼は涼景の胸に顔を埋めた。
幼い子供のように、小さく、嗚咽が漏れる。
涼景はその背を、何度も優しく撫で続けた。
夜風が、二人の上を通り過ぎていく。
世界には、もう二人しかいないようだった。
涼景は密かに誓った。
犀遠が果たせなかった分まで、この人を守る。何があっても、命に代えても。
そして、見届ける。
再び、犀星の頬に唇を落とした。
「そばにいる」
「……ああ」
その夜、二人は言葉少なに寄り添い、誰にも見られない庭の片隅で、互いの痛みをそっと舐め合った。
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本編では書けない涼景×犀星の直接接触って、やっぱり楽しい!
ごめんね、陽。
大丈夫、これは二次創作だから! アナザーワールドだから!
あ……殺気!
星「たとえ別世界だろうと、俺は陽だけだ」
鉄槌が降る前に退散します。
(恵)
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