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外伝 狂戯〜【東雨&星🌺】俺の若様

<概要> ・リクエスト:青空様 ・カップリング:東雨&犀星 ・テイスト:優しく、甘い。 ・その他:狂戯を喰むの翌日、具合悪い犀星を東雨が看病。幸せいっぱい! ――――――――――――――――――――  夜明けの光が薄く寝室を照らす。  牀に伏せる犀星は、まだぐったりと身じろぎもできずにいた。  吐き続けた喉は焼け、身体の奥に残る熱が抜けない。背中にまとわりつく汗の感覚さえ、今は気にする余裕がなかった。  ときおり、下腹部に残る疼きが不意に脳裏を霞ませる。思い出したくもない昨夜のことを、己の体が裏切るように蘇らせる。 「若様……」  衝立の向こうから、小さな足音が近づく。  やがて、まだ子どもの丸い顔に似合わぬ真剣な表情をした東雨が、木の盆を大事そうに抱えて入ってきた。  盆の上には湯気の立つ粥と、刻んだ梅干し、塩昆布の小皿。 「おはようございます。……具合、どうですか?」  東雨はそろりと犀星の枕元に膝をつき、心配そうに覗き込む。  犀星は赤みの差した瞼を重たげに上げ、乾いた唇をわずかに動かした。 「……最悪だ」  小さな声に、東雨の眉が八の字に下がった。 「そ、そうですよね……昨日、たくさん吐いてましたし、熱も下がらなかったし……」 「…………」 「でも、安心してください! 俺、お粥を作りました。消化にいいように、柔らかく煮ました。梅干しも、いい塩加減です」  東雨は無邪気な笑みを見せたが、その目の奥にある気遣いは、八歳の子どもとは思えぬほど深かった。  犀星は、かすかに目を細める。 「……悪いな」 「悪くなんかないです! 若様のためにやったんです。さ、食べましょう」  東雨は盆を持ち上げると、寝台の脇にそっと置き、犀星を見つめた。 「自分で……食べる」  か細い声だが、頑なさが滲んでいる。  東雨は微笑みながらも、首を横に振った。 「無理しないでください。食べさせてあげます」 「自分で食べる……!」  犀星は意地を張ったものの、腕を持ち上げようとして、情けないほどに力が入らず、指先が震えるだけだった。  その様子を見て、東雨の目がまん丸になる。 「若様……」 「…………」 「ほら、やっぱり。食べさせますね」 「……っ」  抵抗もできず、犀星は観念した。  東雨はにっこり笑い、湯気の立つ粥を匙にすくって、ふーふーと息を吹きかける。 「熱いから、気をつけてください」  匙を差し出され、犀星はゆっくり口を開く。  柔らかな粥が喉を通ると、火照った体にじんわりと広がる優しい温かさ。  体の奥に染み入るようで、喉の奥が少しだけ楽になった気がした。 「……美味しい」 「えっ、本当ですか?」  東雨は目を輝かせた。 「よかった。味が薄すぎないか心配で……」 「……ちょうどいい」 「よかったー!」  東雨はほっと息をつくと、また一匙、粥をすくって差し出す。  犀星はその度に口を開き、ゆっくりと味わうように食べていった。  身体はまだ苦しい。それでも、東雨が作ったものだから、大事に、大事に喉を通す。  ふと、犀星の目が東雨の襟元に止まった。  白い布に包まれた小さな包みが、衣の内側から少し覗いている。  あれは――昨日、自分が東雨に渡した氷桃の蜜漬けだ。 「……」  視線に気づき、東雨は慌てて胸元を押さえた。 「だ、だめです! これは俺が若様からもらったんです!」 「……取らない」 「ほんとに?」 「……本当だ」  犀星はかすかに唇を緩める。  それを見た東雨は、目を丸くした。 「……今、笑いましたね!」  東雨は嬉しそうに声を上げる。 「やっと笑ってくれた……昨日からずっと怖い顔してたから、心配だったんです」  犀星は目を閉じ、声にならない笑いを喉に漏らした。  笑った後は、まだ熱の残る体がまた重たく感じる。それでも、どこか心が軽くなったような気がした。  東雨は胸に手を当て、にこにこと笑う。 「昨日よりずっと嬉しいです。蜜漬けより、若様が笑ってくれる方がずっと甘いです」  ――蜜より甘い。  犀星は、また小さく微笑んだ。 「えへへ。もっと元気になってくださいね」 「……努力する」  東雨は粥の椀を膝に置き、布巾で犀星の口元を拭いた。  いつか、若様が一人で全部食べられるようになるまで、自分はずっとそばにいよう――そんな決意が、小さな心の奥に芽生えていた。 ―――――――――――――――――――― これは結構本編に近いです。 本編では、涼景と蓮章のラブラブ月夜デートに差し替えられましたが、当初はこんなふたりを書くのもありだなぁ、と草稿で持ってたやつです。 東雨にとって、犀星はいろんなことを教えてくれた(感情面で)大切な人。 いくつになっても、大好きな「若様」なんですよねw (恵)

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