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1−15【星&陽🔥】秋空の星よりも
<概要>
・リクエスト:めぐみん
・カップリング:犀星&玲陽
・テイスト:切ない。しっとり。
・その他:これから、都に一緒に行きます! もう、一人にしないし、ならない!
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秋の夜は、歌仙の山を抜ける風の匂いを変えていた。樹々の葉擦れの音が、やわらかく、時に寂しく耳に触れる。
犀家の屋敷は、葬儀を終えて静寂に包まれていた。黒ずくめの喪服が片付けられ、焼香の香りも今は薄れ、明日からの新しい時間を迎えるために、誰もが深い眠りに落ちている。
ただひとつ、中庭に面した一室だけは灯が消えていなかった。
戸の隙間からわずかに、油灯の光。火は小さいのに、影は長く、二人の姿を壁に映している。
犀星は、毛氈の上に座し、膝にかけた褥越しに玲陽の手を取っていた。
長い指。関節のあたりがわずかに腫れ、傷跡が走る。
十年。何百、何千もの夜を、これほどに冷たい手で耐え抜いたのだと想うと、胸が詰まる。
「おまえの手は、こんなに細かったか……」
犀星の低い声が、天井に向かって消える。
「兄様の手が、大きくなったんです」
玲陽は笑った。だが、その笑みは儚い。
犀星が都で手に入れた権力も、剣を持つ腕も、命がけで築いた名声も、あの時の少年には予想もできなかっただろう。
それでも彼は信じていた。
ずっと。
犀星は、ゆっくりと玲陽の手の甲に口付けた。
小指に触れただけで、空気が僅かに震えた。
言葉より深い約束は、もうここにある。
「俺は、おまえを連れていく。都でも、どこでも。もう、誰にもおまえを触れさせない」
「はい。私も、星から離れません」
月明かりが欄間の影を落とし、室内を銀に染めた。
玲陽はそっと寄り添い、肩を犀星の胸に預ける。
心臓の鼓動が、互いの鼓動を誘うように速まる。
「……星」
「何だ」
「もう、耐えなくていいでしょうか」
その問いに、犀星は迷わず答えた。
「いい。これからは、俺が全部耐える」
震える指先が、そっと犀星の頬に触れた。
指先に伝わるのは、骨ばった頬の感触。十年の苦労が刻んだ陰影。
だが、同時にそこにあるのは、玲陽のために守り抜かれた強さだ。
二人は近くに向かい合い、互いの輪郭を確かめ合う。
口付けはできない。
それでも、両の掌で顔を包み、額を重ね、息を溶かす。
暖かい。
指先から伝わる熱が、氷のように固まっていた心を溶かしていく。
目を閉じると、十年間の地獄が遠ざかる。
今ここにあるのは、犀星と玲陽だけだ。
「星、私……生きてて、いいんですか」
「生きろ。俺のために」
「私があなたの生きる理由ですか」
「ああ。おまえがいるから、俺は死なずにいられた」
言葉の隙間に、夜風が吹き込む。
満天の秋の星座が、屋根の上でまたたいている。
玲陽がそっと呟く。
「どれほどの星があっても、あなたより美しいものはありません」
二人の指が絡まり、もう離れない。
唇を重ねられずとも、心は確かにひとつになった。
夜が深まるほど、二人はただ抱き合った。
犀遠の魂が空のどこかで見ているような気がして、そっと目を閉じる。
どうか、見守っていてください。
この愛が、もう誰にも壊されぬように。
静かな室内に、木板がきしむような音が一つ。
玲陽はゆっくりと上体を起こし、犀星にまたがるように膝をついた。月明かりが背後から差し、玲陽の細い肩や鎖骨の線を柔らかく縁取っている。
「星……」
玲陽の声はかすれて、震えていた。
「私、ずっと……あなたに触れたかった」
その手が犀星の頬を撫でる。親指が頬骨をなぞり、ゆっくりと唇の端まで降りていく。だが、決して触れはしない。玲陽自身も知っている。唇は、二人にとって禁忌の領域。
代わりに、玲陽はそっと犀星の胸元に顔を埋めた。
薄い寝着越しに伝わるのは、逞しい胸板と、規則正しく刻まれる心音。
トクン、トクン、と二つの鼓動が交わり、まるで同じリズムを刻むように一つになる。
「もう、怖くないんです」
「……そうだな」
「この温もりがあるから」
犀星の腕が玲陽の背中に回り、引き寄せる。
ゆるやかに髪に指を通し、何度も撫でるたび、玲陽は小さく震えていた。
その震えは怯えではない。
待ち続けた愛にようやく包まれている、幸福の震えだ。
玲陽の指先が犀星の首筋から肩へ、胸元へと滑り、やがて下腹に触れかけて止まる。
傷跡がある。
玲陽の身体にも、犀星の身体にも。
だが二人は、互いの過去を問いただすことはしなかった。
その代わり、指で傷をなぞり、そっと唇の形で息を吹きかける。
優しさと慰めのすべてを込めて。
「星」
「……」
「私たちはもう、離れません」
「ああ」
「どれほどこの体が壊れていても、心が壊れても、あなたのために生きます」
「おまえの命は、もう俺のものだ」
犀星が玲陽の後頭部に手を添え、額を押し付けるように重ねる。
そのまま、鼻先を擦り合わせ、頬と頬を寄せ合う。
目を閉じると、二人の吐息が絡まり合い、熱を帯びていく。
「……星」
「何だ」
「もっと、抱きしめて」
玲陽の声は、微かに涙が混じっていた。
十年間、どれほどこの腕を求めてきたか。言葉にしなくても、犀星には伝わっていた。
強く抱き締める。
玲陽の背骨が軋むほどに、互いの体温を交換し、心臓の鼓動さえ共有するように。
やがて、玲陽がゆっくりと顔を上げる。
瞳は、秋の夜空の星よりも鮮やかな金色。
その光が、犀星の蒼玉のような瞳に映る。
「このまま、眠りたくない」
「……俺もだ」
二人は横になり、向き合ったまま再び抱き合う。
玲陽の足が、犀星の足に絡みつく。
指先は肩から二の腕、そして胸へと撫で続ける。
犀星の掌は玲陽の髪を撫で、背をさすり、腰を抱きしめる。
まるで一つの命のように、二人は動きを合わせていた。
激しさはない。だが、その穏やかな愛撫の全てが、性の交わり以上に濃密だった。
体温、心音、吐息――それだけで十分だった。
やがて玲陽は、犀星の胸に顔を埋めたまま、ほとんど聞こえない声で呟く。
「星……あなたが……」
「……ああ」
月の光は優しかった。
どこまでも続く秋の夜。
互いの鼓動が次第に静まり、深い眠りが訪れても、二人が離れることはなかった。
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いろんな事情でいろんなことができない二人ではありますけれど、だからこそ、心の距離はゼロなんだろうなぁ、って。
やっと、一緒に都に行けるね。
長かったねぇ(号泣)
(恵)
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