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第6話
相澤先生side
放課後、東條に捕まっては帰り道を車で送る日々が最近は増えていた。
正直なところ、特定の生徒と親しくするのは宜しくない。他の生徒から贔屓だと言われかねないし、東條との関係で変な誤解を産むのは避けたかった。
上田に対して邪な感情を持っているのにそんな事を思うのもなんだが、それでも上田に対してどうこうしようなどとは一切考えていない。
ただ、想っているだけで、見ているだけでよかった。
特に意識していた訳じゃないが、今日は自ずと東條の事を避けていた。
職員室の備品が無くなっていたので、買い出しを頼まれて「俺が行きます」買ってでて車を出した。これで今日は東條に放課後声を掛けられなくて済む。
ホームセンターに寄って備品を揃えてまた学校の方向へと車を走らせていると、高架下でバイクで付けられているうちの制服の生徒がいて、不審に思って目を凝らす。
つけられているのは東條だった。
冷静に対応している東條だが、その顔は怯えているように見える。
慌てて車をUターンさせて、後ろから東條を追いかける。近づいて、東條を付けるバイクの男に向かって思い切りクラクションを鳴らした。
慌ててバイクの男は逃げていったが、このまま東條を一人で帰すのは東條も不安だろうと思って、車に乗るように促した。
東條が車に乗ったはいいものの、話す声は低く、酷く機嫌が悪いのがわかる。
どうやら、俺が東條を避けていたのが原因らしい。
どうしようかと困っているところに、大きなゲームセンターの施設が見えて「ちょっと寄るか?」と声を掛けてみる。断られるかもしれないな、と思っていたら案外ぶっきらぼうにも「別に……少しなら良いけど」と言った東條に、天邪鬼な子供のようで可愛げがあるな、と思って口元が緩む。
ゲームセンターに入るとあるゲームのキャラのぬいぐるみが入っているUFOキャッチャーをどこか哀愁漂う表情でじっと見つめる東條に、それがに何か思い入れがあるのかと思って「これ欲しいのか?」と応えを聞く前に機械に100円玉を入れて取ろうとする。
UFOキャッチャーは学生の頃、ゲームセンターに入り浸って何度もやっていたからかなり得意だ。
案の定、計画通りに2回目で取れた。
どこか落ち込んでいる様子だった東條にそのぬいぐるみを渡すと少し機嫌が治ったようで、前向きになった東條に偉いな、という気持ちで背中をとんとんと叩いた。
帰りの車を走らせていると、東條がうとうとしている。
「寝てていいぞ、着いたら起こすし」
そう言うと、目を閉じる東條。車の揺れが心地よかったのか、すぐに眠りに落ちてしまう。
ぬいぐるみを抱いたまますやすや眠る東條がまるで小さな子どものように見えて、あれだけ俺を罵倒したと言うのに、なんだか可愛らしく思えた。
家に着いてもすやすやと寝息を立てて眠る東條。
「おーい東條おきろ」
声をかけても全く起きる素振りを見せない東條に少し迷って、そっと手を伸ばす。頬を軽くぺちぺち叩いて「おきろ、東條」ともう一度声をかけるが、それでも起きない。
俺の手と同じくらいの大きさの小さな顔に、整った顔のパーツが綺麗に収まっている。
そんな無防備に眠る東條に胸がぎゅっと掴まれるような感覚がして、何だかまた触れたくなって東條の頭をそっと撫でる。柔らかな髪の撫で心地が良くて、数回撫でてしまう。
すると、東條の手が俺の手にするりと重ねられて、すり、と頬を擦り寄せるられる。
口元を緩ませて柔らかな笑みを浮かべる東條に、胸の鼓動が早くなるのが分かった。
まさか、と思う。
そんな自分が怖くなって、ぱっと直ぐに手を引いた。
そのあと目を覚ました東條に、何も悟られまいと平常心を装って普通に会話をする。
東條が車を降りて、はぁ、と長いため息をついた。
――俺は一体東條になにを。
何も考えないようにしよう、とすぐに車を出して学校へと戻った。
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