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第13話
「あ、お茶足りねえ」
1人の男子がペットボトルのお茶を注ぎきって、呟く。
「クーラーボックスも空だ」
上田がクーラーボックスを確認するけれどお茶はもう無くなってしまっていて、ジュース類すら1本もなかった。
晴天で昼間の太陽が真上から照り付ける中、飲み物なしでは辛い。幸い地図アプリで調べてみると歩いて8分程のところにスーパーがあった。
炎天下の中8分は少し遠い気もするけれど、飲み物なしで過ごすのは無理があるし、買い出しに行って飲み物を調達した方がいいだろう。
「俺買い出し行くよ」
テントや木炭の前準備を殆ど皆にやって貰っていたので、俺が自ら買い出しを買ってでる。
「じゃあ俺も一緒に行く」
上田が手を挙げて俺の横に並ぶ。それから、いこうぜ、と手首を掴んで前を歩いた。
歩道のないあぜ道を真っ直ぐに歩く。地図アプリで確認したところ、ひたすら真っ直ぐ行けば右手にスーパーがあるらしい。
しばらく歩いて行くと手前から見覚えのある人影が見えた。
「お、相澤先生じゃん。何してんの」
相澤先生は上田に声をかけられて、こちらに気づく。ちら、と俺を見て一瞬動きを止めた。
「あ、ああ。実家がこの近くなんだよ」
「夏休み帰省?」
「まあそんなとこだな。お前らは何してんだ?」
「みんなで川でバーベキューしてたんだ」
上田が相澤先生に駆け寄って、肩をとんと相澤先生の身体につける。
上田は誰にでも距離が近い。仲良くしてる人に対しては特にだ。
ジリ、と胸が痛む。相澤先生に触らないでほしいけど、そんな事は言えない。
「なあ、今から買い出し何だけど先生も来る?」
「俺の事財布にする気だろ」
「あはは、バレた?」
相澤先生がちら、と俺を見る。
「まあ別にいいけど、他の奴には言うなよ」
「まじ?やったー」
相澤先生と上田が並んで歩く後ろを、着いて歩く。上田とばかり話す相澤先生を後ろからじっと見つめる。たまに笑う相澤先生の表情に胸がジリ、と焼けるように痛む。
気分が悪い。もやもやする感情に胸が重くなってはぁ、とため息をついた。
スーパーについて自動ドアをくぐると、一気に冷気に包まれて汗ばんだ肌を冷やす。
飲み物の並んだコーナーへ行ってお茶を数本選んでカゴに入れる。上田が横から炭酸のジュースとスナック菓子も入れる。
「こんなもんでいいかなあ」
レジのほうへ向かう途中で上田が冷凍コーナーにふらりと行く。
「相澤先生、アイスも買ってよ」
「ええ?1個だけだぞ」
上田がアイスのコーナーを指さして強請る。相澤先生は困ったように眉を寄せながらもそう言って承諾する。
「東條も1個選べよ」
後ろから見ていた俺にちら、と振り返ってそう言ってくれる。
「いいの?」
「いいだろ」
遠慮がちに聞く俺に相澤先生がふ、と笑う。
その言葉に嬉しくなって素直に甘えて、チョコ味のカップアイスをひとつ取ってカゴに入れた。
横で先生も甘そうなピンク色の棒付きアイスを選んでいる。
レジを通すと、本当に相澤先生が財布を出して全て払ってくれた。上田は「さんきゅ先生」と軽くお礼を言って相澤先生の肩に手を載せる。
「ありがとう、相澤先生」
「ん、いいよ」
上田の横から顔を覗かせてお礼を言うと、大したこと無さそうにそう言った。
レジ奥に広めの飲食スペースがあったのでそこに入ろう、と上田が言う。丸テーブルに3つの椅子が丁度置いてあったので3人でそこに座った。
スーパーの中とは違ってあまり冷房は効いておらず、設置された扇風機がブオーと鳴らしながら首を振る。時折こちらに風が吹くけれどむっとした湿気にまた汗が滲んでくる。
相澤先生をちら、とみると棒付きのアイスをかじって食べている。ぺろ、と唇を舌で舐めとる仕草にぞくりとする。
「先生の、一口ちょうだい」
欲しくなったのはアイスじゃない。
「あ?いいけど」
アイスを持つ相澤先生の手の上から自分の手を重ねて引き寄せて、一口齧り付く。
「っ、」
相澤先生がごくり、と喉を鳴らして唾を飲む。
「ん、めっちゃ甘いこれ。なに味?」
「練乳いちご」
「先生こんな甘いの好きなんだ」
そう言って笑いかけると、顔を背けられる。赤く染った耳。その下の首筋にたらり、と汗が垂れる。
「先生、汗垂れてる」
「あ?どこ?」
「ここ」
そう言って手で汗を拭うと、ばっと慌てて身体を仰け反らせる。
「っ、ばか、汚いだろ」
「全然汚くないよ」
「あのなあ、」
相澤先生の顔が赤く染まる。俺のせいでそうなっている相澤先生が愛しくて、撫で回したくなる。
本能に任せて手を伸ばそうとすると、上田にその手を取られて制される。
「先生嫌がってるだろー。なあ、俺も東條のやつ一口くれよ」
「……いいけど」
そう言ってチョコアイスのカップを上田に渡す。
大きなひと口で半分くらいを食べてしまう上田に、思わずあ、と声が漏れた。
「食べすぎ!」
「あは、うまー!」
飄々と笑う上田に少し苛立ってため息をつく。
「東條、機嫌悪っ」
肩に腕を回されて「ごめんね?」と顔を寄せて下から覗き込まれる。
ガタン、と椅子の音がして、相澤先生が立ち上がる。
「じゃ、俺もう行くからな」
そう言って、引き留める間もなく飲食スペースを出ていってしまう。
「先生ばいばーい」
上田が俺に纏わりつきながら相澤先生に手を振る。
相澤先生も外から軽く手を挙げて、足早にどこかへ行ってしまった。
アイスを食べ終わって上田と飲食スペースを出る。照りつける強い日差しに肌がジリジリと焼ける感覚がする。
――あんまり相澤先生と話せなかったな。
手に残る相澤先生の肌の感覚を確かめるようにもう片方の手で握る。
赤くなった相澤先生を思い出して愛しさに胸が焦げる。
やっぱり俺は、相澤先生が好きだ――。
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