5 / 29
二つの支配、二つの欲望
ジュナンからの調教を受けた後、イリアは気分転換をしようと、少し疲れた体を引きずるようにして中庭に出た。
体は熱く、あの男の手が刻んだ痕跡がまだ消えず、全身が疼いていた。昨夜から今朝にかけての出来事が、イリアの身体を支配している。その感覚は甘くもあり、同時に恐ろしいほど濃密で、どこか懐かしいような、…奇妙なものだった。
だが、中庭に足を踏み入れた瞬間、そんな複雑な感情はどこかへ吹き飛んだ。目の前には、王ラザールが他の美しい少年たちと戯れている姿があった。
奴隷たちはほとんど裸同然で、ラザールの周りに集まっていた。彼の手が一人の少年の腰に回り、他の少年の肩に触れ、そのすべてがラザールに所有されている証のようだった。少年たちの目はどこか挑発的で、ラザールの指先が肌をなぞるたびに、彼らの表情が歪み、快楽に浸っていく様子が見て取れる。
イリアはその光景を見つめながら、胸が締めつけられるのを感じた。何だ?この気持ちは。ラザールが、イリアの存在に気づき、こちらに目を向けた。だが、彼の視線は何の感情も伴わない冷徹なものだった。
「イリア、来たか。」ラザールの声は、あまりにも無関心で、淡々としていた。
イリアはその視線に答えることなく、少しだけ目を伏せる。今、彼の中で渦巻いているのは、混乱と欲望、そして恐れだった。ラザールは、まるで昨日の夜の情熱を忘れたかのように、他の少年とまた唇を重ね、さらに手を伸ばしていた。
その一方で、イリアの心にはかすかな違和感が広がる。昨夜…あれだけ優美に自分を求めたはずのラザールが、今はただの支配者として、イリアを無視しているように感じられた。昨日の夜の熱が、まるで泡のように消えてしまった気がした。
その瞬間、イリアの背後から足音が響く。振り向くと、一人の男性が彼の元へ歩み寄ってきた。彼の美しさは、ラザールとはまた違った魅力を持ち、冷徹でありながらもどこか優しさを感じさせるような雰囲気があった。
「エリオス様だ」
王と戯れていた少年たちから、にわかに歓声が上がる。
「ようこそ、リュサの子。」その男ーーエリオスの声は、甘く響きながらもどこか挑戦的だった。
イリアはその声に引き寄せられるように顔を上げる。エリオスの瞳は、まるで自分の中に何かを探るような、深く鋭いものだった。そのまま男は、イリアに近づき、彼の肩に手を置く。
「お前が新たな兄上の花、か。俺の名はエリオス。王の弟だ。どうだい? 昨夜、良い夜を過ごしたか?」
その言葉に、イリアの胸は一瞬締め付けられる。ラザールが他の美しい少年たちと戯れる姿と、エリオスの甘美で冷徹な微笑みが、心の中で交錯する。
「…昨夜は。」イリアが言いかけたその時、エリオスはさらに一歩近づき、肩に置いた手に力を込める。
「言わずとも分かる、お前が思っているような夜ではなかっただろう。あの男、兄上はすぐに『新しい花』に飽きてしまう。だが、俺は違う。お前をもっと…深く、慈しみたい。」エリオスの声は低く、甘く響く。
その手がイリアの肩から滑り、背中に回る。手のひらが触れるたびに唇が耳元に近づき、甘い声が囁かれる。
「お前が感じるべきなのは、愛情だけではない。俺の手で、お前のすべてを解き放たせてやる。」エリオスの息が耳たぶをかすめ、そのまま首筋に吸い付く。
イリアはその感覚に身を震わせる。エリオスの手がどこか自分の身体を試すように触れてきて、身体の奥から熱が湧き上がる。まるで、身体が彼の支配を求めているようだった。
だが、イリアの目にはラザールが映っていた。彼が他の奴隷たちと交わる姿に、イリアの胸はどこか締め付けられる思いがする。彼は、まるで自分を所有することに興味がないかのように、無関心な目でイリアを見ていた。それでも、イリアはその冷徹な眼差しにどうしても引き寄せられてしまう。
「お前は俺のものになるべきだ。」エリオスの言葉が再び響く。彼の手がイリアの身体を強く引き寄せ、そのままイリアの唇を奪う。
イリアの中で心が乱れ、体が反応する。どちらが本当に自分を支配しているのか、どちらが愛しているのか、彼の中ではっきりとした答えを出すことができなかった。
「俺なら、兄上よりももっと上手に、お前を咲かせてやれる。」エリオスはそう言って、イリアをさらに深く自分の世界に引き込んでいった。
「ついて来い、『俺の花たち』にお前の蕾を育てさせよう」
イリアはそのまま、エリオスの甘い誘惑に溺れながらも、どこかでラザールの冷徹な眼差しを忘れることができなかった。
ともだちにシェアしよう!

