7 / 29
双蛇との饗宴 Ⅱ
細い指がイリアの胸元をなぞる。もう片方の手が、うなじから肩甲骨にかけて羽根のように滑る。香油の甘い香りと双子の吐息が絡み合い、空間を満たしていく。
カイとシス――金の巻き毛と翠の瞳を持つ双子の少年たちは、まるで訓練された舞姫のような動きでイリアの身体に触れていた。無邪気な笑みを浮かべながらも、その手つきはあまりに慣れていて、触れるたびにイリアの肌は熱を帯びていく。
「ほら、力を抜いて。そう、いい子」
シスが囁きながら、香油の残る指先で鎖骨のくぼみに円を描く。すでにその肌はうっすらと上気しており、イリアは呼吸を整えるのに必死だった。
ふいにカイが後ろから抱きしめ、イリアの耳元に口を寄せる。
「さっきから、ラザール様のことを考えてた?」
その問いに、イリアは思わず肩を震わせる。だがカイは、それを「図星だね」とでも言うようにくすりと笑った。
「君の視線、ずっと揺れてる。あの人を、忘れたいの?」
「……わからない」
イリアの声は、ほとんど囁きのようだった。言葉を選ぶ余裕もなく、今はただ、双子の指先がもたらす刺激に揺らされていた。
カイはイリアの首筋に唇を寄せ、柔らかく吸い付きながら言った。
「じゃあ、僕たちが忘れさせてあげる。君の身体に刻んで、ここが“エリオス様の庭”だって、教えてあげる」
「だめだ……そんなこと、言わないでくれ……」
そう言いながらも、イリアの声には力がなかった。拒絶のはずの言葉に、どこか甘さが滲んでいた。シスが小瓶から新たな香油を垂らし、その香りを指先でゆっくりと広げていく。乳白色の液が肌に吸い込まれると同時に、まるで心まで溶かされるような陶酔感が押し寄せた。
「いい香り……でも、もっと君自身の匂いが欲しいな」
シスの言葉とともに、指先が腹部の下に滑っていく。触れているのは皮膚だけなのに、内側から火照るような感覚がじわじわと広がっていった。
イリアの身体は震えていた。だがその震えは、もはや拒絶から来るものではなかった。むしろ、次に来る波を待ちわびるように、身体が自然と双子に寄り添っていくのが分かる。
カイとシスは顔を見合わせ、ふわりと笑った。
「君って、本当に可愛い花だね」
「ねえ、イリア。もっと感じていいんだよ。ここでは、恥ずかしがらなくていい」
二人の手が同時に動き、イリアの背と胸とを撫でる。指先が交差し、互いの動きに呼応するように刺激を与える。甘やかな声が、イリアの喉の奥から自然に漏れた。
「う……あ……っ」
熱い。身体が熱くて、苦しいのに、それが快い。自分がどこまで許してしまうのか、もう判断がつかなかった。
双子の少年たちは、まるで花を咲かせる庭師のように、イリアの身体のどこを触れば最も美しく震えるのかを熟知していた。その指先が与えるのは、快楽と同時に、何か深い“解放”の感覚だった。
やがて、香油で湿った少年たちの指先が、イリアの後ろの最も恥ずかしい部分に触れた。まだ硬い蕾をゆっくりとほぐして開花させるように。はじめこそ蜜蜂に刺されたような刺激を感じたものの、そこが、確かにとろけていくのが分かる。
「ほら、イリア。この庭の香りに包まれて、君はもう、何も考えられなくなる」
シスがそう囁いた瞬間、寝台がそっと揺れ、イリアの体に影が落ちる。
エリオスだった。
彼は、ただ静かに、慈しむような眼差しで三人の様子を眺めていた。片肘を軽くヴェールの支柱にあて、まるで絵画の一部のような優雅さで、口元にうっすらと笑みを浮かべている。
「楽しんでいるようだな、リュサの花」
その声に、イリアははっとして振り返った。視線が合った瞬間、背筋に甘い緊張が走る。
エリオスはゆっくりと近づき、イリアの顎先に指を添えて顔を上げさせると、その瞳を覗き込んで囁いた。
「お前の花弁は、確かに美しくほころびはじめている。でも、それが誰の手で開かれるか……お前自身が、選ぶんだ」
イリアの目が揺れる。
「選ぶ……?」
「そう。兄上か、俺か、それとも――まだ咲くことそのものを拒むのか。すべては、お前の意思次第だよ」
まるで試すような微笑みとともに、エリオスの指がそっとイリアの頬を撫でた。
カイとシスは、イリアの両脇に寄り添いながらも、主の言葉に口を挟むことはなかった。ただ静かに、やわらかな手つきでイリアの手をとり、その体温を伝える。
「君が望むなら、僕たちはすぐに止めるよ」
「でも、もっと深く、咲かせてあげることもできる」
甘く囁かれる声に、イリアの胸がきゅっと締めつけられる。
ラザールの冷たい瞳。エリオスの穏やかな微笑み。双子の無垢な指先。すべてが、イリアの中で渦巻き、迷いと欲望とが溶けあっていく。
――選べるのか、俺に……?
けれども、今この瞬間、イリアの身体は確かに“誰か”の手によって開かれようとしていた。
恐ろしいほどに、甘やかに。
「……少しだけ、ここにいてもいい?」
その囁きに、エリオスは満足げに目を細める。
「もちろん。お前が心から咲きたいと思うまで、ここはお前の庭だ」
イリアは、双子の温もりに再び身を預けた。だがその瞳の奥には、まだ消えきらない影が残っている。ラザールという存在が、遠くで、強く、心を引いていた。
――それでも今は、この庭の香りと、熱と、囁きの中で。
そのすべてに、身を委ねた。
ともだちにシェアしよう!

