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月光の下の享楽
ラザールは、そんなイリアの複雑な心情を見透かすかのように、優美な微笑を見せると、そっと肩に手を置いて、彼を自分の胸の中に抱き寄せた。鍛え抜かれた力強い体から、熱がほとばしっているのをイリアは感じた。その体温は、まるで自分に対する情熱の証であるかのようだった。
ーーいや、これも一夜のまやかしなのか?
ーー夜が明ければ再び王は姿を消し、別の奴隷たちと…別の「花」たちと戯れるのだろうか?
イリアは、その感情に「嫉妬」という名前がつくのを恐れていた。そもそも、自分は奴隷狩りに遭い、無理やりここに連れてこられたのだ。そんな自分が、何故王の寵愛を独占したいと考えてしまうのか。ラザールが魅力的な男性であることは、確かに間違いない。しかし、それとこれとは話が別だ。
彼はイリアのことを、高山の頂に咲く「珍しい花」を手に入れた、ぐらいにしか思っていないに違いない。しかし、イリア自身はどうだろう?そんなラザールに対し、忠誠を誓い、この島の一角に咲く「花」として愛でられることに、躊躇はないのだろうか?
「イリア、余計なことを考えるな」
王が、優しさに満ちた声で、苦悩するイリアの耳元にそっと囁く。
「お前はただ、私のものになれば良いのだ。さあ、蕾を見せてくれ。大方、あの男の『花たち』にでも躾 られたのだろう?」
王の指がイリアの胸に伸び、腹へと下っていき、やがて最も敏感な花の根に触れる。イリアの根は、混乱した頭とは裏腹に、その刺激にやすやすと反応し、大きく膨らんでいく。王は、その感触を慈しむように、ゆっくりとそこを扱きながら、もう片方の手で、後ろの花弁にも愛撫の領域を広げていった。
「んっ‥あ、は…っんん」
すでに双子による調教によってほぐされた花弁は、容易に花開き、ラザールの指の先端を受け入れた。そのまま、王の指先は、とぷり、という淫靡な音を立てて、花弁をさらに押し広げていく。わずかに痺れるような刺激が、甘い快感へと変わるまで、そう時間はかからなかった。
「よく解されているな、憎らしいほどに」
王は、前後の愛撫を止めることなく、イリアに再び熱い口づけをした。舌先が、イリアの歯列をなぞり、口腔を蹂躙していく。まさにそれは、力ある者による支配だった。イリアの肉体は今、ラザールという圧倒的な権力に縛り付けられていた。
「んっ…ああっ…」
ラザールの唇が離れた瞬間、イリアは思わず、あられも無い声で大きな喘ぎを漏らした。寝台の上は、まるで湯気が立ち上りそうなくらいの熱に満ちていた。王は、快楽に溺れそうになっているイリアを愉悦に満ちた表情で眺めながら、ゆっくりと自らの体を離し、再び葡萄を一粒手に取った。
「今夜は少し変わった遊びをしてみよう」
「何を…?」
「案ずることはない。お前もきっと気に入るさ」
ラザールは、イリアの体を軽々と持ち上げ、寝台の上で四つん這いにさせた。自然と花弁が広がり、これ以上ないくらいの羞恥心でイリアの頬は赤く染まる。ラザールが何をしようとしているのか、分かった気がした。
「そんなこと…」
「できないとは言わせないぞ、リュサの花よ。これはエリオスにその身を預けた罰だ」
言葉とは裏腹に、ラザールの声には温かな情のようなものが満ちていた。いや、むしろ少年のように純粋な歓喜だろうか?
ラザールは、そのままイリアの思った通りのことをした。熟れた果実から滴る甘い露が、イリアの開きかけた花弁を濡らしていく。イリアは、すでに喘ぐことすらままならないほどの快楽が、意識を支配しているのを感じていた。
「あっ…は…っあ」
ーーこんなことをされて、こんな声を出すなんて
ーー俺は一体、どうなってしまったのだろう?
ラザールがイリアの花弁に顔を寄せ、そこから滴る露を丁寧に舐め取っていく。根に触れられてもいないのに、気がつくとイリアは達していた。その直後、イリアの胸に羞恥と後悔が押し寄せる。
「お前は本当に可愛い花だ、イリア」
王は、息も絶え絶えなイリアを再び自分の胸に抱くと、額に優しく口づけをした。
「絶対に、他の者に渡したくない」
ーー嘘だ。そんな言葉、決して信じられない。
イリアは、王の胸に抱かれながら、やはりそんな懐疑心を捨てられずにいた。今さっき、快楽に支配され熱くなっていた体が、再び氷のように冷えていくのを感じる。ラザールの口づけを受け入れながらも、イリアの胸中にはやはり疑念が渦巻いていた。
「誰の手で開かれるか……お前自身が、選ぶんだ」
エリオスの言葉が、再び脳内に蘇る。
ーーそう、選ぶのは俺だ。まだ、リュサとしての誇りを捨てたわけじゃない。
窓から差し込む青白い月光が、イリアの顔を覗き込むラザールを美しく照らす。しかし、光は満遍なく当たることなく、王の顔には濃い陰影ができていた。まるで、イリアには読み解くことのできない、王の心の奥底を暗示するかのようにーー
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