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解放の儀式 Ⅱ

 青年に口づけをされた瞬間、イリアの脳髄に、まるで雷に打たれたかのような強い刺激が走った。しかし、決して痛いわけではない。むしろその逆だ。これほど甘美で、官能に直接触れるような接吻(キス)は生まれて初めてだった。 「っん…は…あ」  あくまでも柔らかい手つきで衣服を剥ぎ取られながら、イリアは喘ぎ声を漏らすのを止められなかった。すでに全裸になった華奢な肉体の中心で、自らの花の根だけが、不釣り合いに逞しく、さらなる快楽を欲するようにぴくぴくと震えているのが分かる。刺激によって溢れ出た蜜が、太ももを伝い、雨粒のように足元へと垂れていく。  青年の褐色の肌は、まるで黒曜石のような輝きを放ち、イリアを魅了した。この男に激しく抱かれたい。とめどなく溢れ出る欲望に心が(とろ)けていくのを感じながら、そんな切実な思いに駆られる。ラザールにも、エリオスにも感じたことのない、むき出しの感情。これが、淫魔というものの力なのだろうか…? 「そう、それで良い」  ミフリが、嘲笑を含んだような声音でイリアに向かって告げる。 「彼は私が生み出した最高傑作。快楽に身を任せているだけで、お前の性脈は目覚めていく」  彼の口にする「性脈」という言葉が、何を指すのかは分からない。  だが正直なところ、イリアはその意味を理解しようとも思わなかった。今はこの心地良さに浸っていたい。とにかく、快楽の虜囚になりたい。青年の唇がイリアのそれから離れ、首筋、鎖骨、そして両胸の小さな二つの果実へと下っていく。触れられるたびに、イリアの根は蜜をこぼし、蕾がひくひくと開いたり閉じたりを繰り返す。 「ん…あ…っん」  イリアの肉体は、もはや全身が性感帯となっていた。青年の舌が、指先が、唇がどこかに触れるたび、触れられた部分が熱くなり、何らかのエネルギーのようなものが満ち溢れてくるのが分かる。やがて、青年はイリアの足元へ跪くと、蜜をこぼし続けている彼の根を手に取り、唇を使って優しく愛撫を始めた。それと同時に、片手が腰に回り、「何か」を欲して動き続けている蕾を柔らかくほぐし始める。  ーー信じられない。  ーーこのままでは、俺の“何か”が、壊されてしまう。  そんな焦りを感じながらも、イリアは快楽に溺れる自分をすでに制御できなくなっていた。それにーーこれは「花」として成長するために、ラザールとエリオスが自分に命じたプログラムなのだ。この淫魔とのまぐわいを無事に終えることができれば、自分はもっと、もっと強い「力」を手に入れることができるに違いない。  褐色の淫魔は、イリアのその決意を感じ取ったかのように、指の先端を彼の蕾の中へと沈み込ませた。一瞬、蜜蜂に刺されたかのような鈍痛を感じたが、それはすぐに甘美な快感へと変わっていく。昨夜、ラザールにされた「悪戯」など、この愛技と比べれば児戯のようなものだ。第一関節、第二関節、そしてさらに奥まで、イリアの蕾は青年の指を受け入れた。  すると、不思議なことが起こった。まるでイリアの蕾が底なしの沼になったかのように、内部で変容を始めたのだ。まるで、蕾の奥から無数の脈管がひらいていくような感覚。快楽の奔流が、血よりも深く身体をめぐり、どこまでも広がっていく。 「っん…あ…ああ…ん」 「始まったな」  ミフリの呟きが、自らの喘ぎ声に混じって聞こえてくる。 「さあ解放の時だ、リュサの花よ。お前の性脈がいかほどのものか、たっぷりと見させてもらおう」  ーーい、嫌だ。  ーーこのままじゃ本当に…体が…  イリアは首を横に振りながら、青年から離れようとしたが、淫魔の妖力なのか、それとも強靭な腕力のためか、どうしても体を離すことができない。その間にも、イリアの蕾の内部はどんどん変化していき、やがて内部と外部の境界線が分からなくなるほどに、肉体の輪郭が曖昧になっていくのが自分でも分かった。もはや、イリアの蕾は全てを飲み込み、溶かしてしまう食虫花のようだった。  何だか全てが、どうでも良くなる。イリアの意識は蕾と一体化し、この快楽を貪ることしか考えられなくなっていた。これは果たして、「成長」なのだろうか。それとも、「進化」なのだろうか。少なくとも、自分の肉体が未知の領域に達したことは確かだった。イリアの身体は、淫魔の愛技によって、確実に覚醒させられていた。  イリアは、体を弓なりにのけぞらせながら、あられもない声で甘い喘ぎ声を漏らし続けた。これが、性脈の解放ーー体が内側から作り変えられていく感覚。  やがて、蕾の一番奥で何かが弾けたような感覚があり、その瞬間、イリアは達していた。根から、これまでとは比べ物にならないほどに濃い蜜がほとばしる。 「ん…っあ…ああ…あ…!」  その瞬間、褐色の青年は、まるで役目を終えたかのようにイリアの体から離れ、ふっと立ち消えていた。後には、イリアの蜜で汚れた魔法陣と、そして相変わらず嘲笑するような表情でこちらを見つめるミフリだけが残されていた。  しばらく、静寂がその場を支配する。イリアは、恥辱でいっぱいになりながらも、肩で息をしつつ、宮廷魔術師の顔をしっかりと捉えた。 「これで…儀式は…?」  ミフリは満足げに頷くと、イリアの方へ近づき、今朝と同じように頬へ顔を寄せると、耳元で囁いた。 「無事に終わった。私も大変素晴らしいものを見せてもらったよ」  白檀(びゃくだん)の香りが、まだ快楽の名残に震えている肉体を刺激する。 「結果はラザール様とエリオス様に報告しておく」  そう言って、ミフリは初めて素直な笑みのようなものを見せた。 「私が保証しよう。お前はきっと、この島でも随一の『花』になる。今はまだ迷っているだろうがーー蕾が完全に開いたとき、世界は大きくその色を変えるに違いない」

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