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花が開くとき

 儀式が終わり、自室に戻っても、イリアはの身体はまだ熱を帯びたままだった。蕾が、いや全身が官能の疼きに乱されているのを感じる。いつの間にか夕刻を過ぎており、中庭にラザールの姿が見えなかったことは救いだった。もし彼が他の「花」たちと戯れているところを目にすれば、性脈が開かれたイリアの肉体は敏感に反応してしまうところだったに違いない。  ーー今夜の夜伽はどうなるんだろう?  ーー性脈が開かれた今、俺は…  寝台に横たわり、火照る身体を持て余しながら、ふと考える。甘い果実で弄ばれた昨夜の出来事も、淫魔との交合を終えた今となっては遠い昔のことのようだ。だが、イリアの蕾は確かにまだ「何か」を欲して信号を発していた。思わず、自分の指が、そこに伸びていくのを、まるで他人事のように感じながら見つめる。  とぷり。  淫靡な音を立てながら、イリアの指先は滑らかに蕾へと沈んでいった。まるで、食虫花が餌を欲して待ち構えていたかのように、彼のそこはとても自然にイリアの指を受け入れた。痛みはなかった。ただ、甘い刺激だけが、イリアの脳髄を満たしていた。 「っん…は…あ」  その甘美な快感に、喘ぎ声を漏らしながら、イリアはラザールのことを思い描いていた。ラザールはまだ、イリアの肉体を弄ぶだけで、自らの根で彼の蕾を貫いたことは一度もない。だが、今はそれが欲しくてたまらなかった。この気持ちは、一体何なのだろう?ただの肉欲なのか、それとも…  自分でもよく分からない感情に翻弄されながらも、イリアは自分の身体がすでに準備を整えていることを実感していた。指の根元まで蕾に挿入しても、イリアの熱はまだ満たされなかった。もっと、もっと欲しい。あの儀式の間に感じたような、「開かれていく感覚」で、この部分を満たしたい。ラザールの根はどれほどのものだろう?あの剛健な肉体から想像するに、恐らくその部分もかなりの逞しさを持っているに違いない。  ーーおかしくなりそうだ、俺…  ーー今すぐ欲しくてたまらない  夜伽は「花」としての仕事であるはずなのに、性脈が開かれた今、それはイリアにとってそれ以上の意味を持ち始めていた。早くラザールに抱かれたい。彼の寝台の上で、蕾を貫かれているところを想像するだけで、イリアの根からはすでに蜜が溢れ始めていた。太ももを、欲望の雫が伝っていくのが分かる。恐らく、ミフリの報告は彼の耳にもすぐに届くだろう。そうだ、そしてエリオスにも…  エリオスから夜伽の依頼があったことはまだないが、ミフリの儀式が王とエリオス両方の命である限り、今後そうした機会がやってくるかもしれない。選ぶのは自分。「花」として蕾が綻び始めた今、イリアには性奴隷としての自覚と自信が確かに芽生えていた。  ーーこれは、エリオスの分。  蕾に沈める指を、試しに二本に増やしてみる。すると、さらなる快感がイリアの全身を貫いた。 「っん…ん…ああ」  尽きることのない快楽の中、イリアはいつまでも、いつまでも蜜を溢しながら喘ぎ続けた。貪欲に、そして切実に、果てることのない悦楽を求めながらーー ◆ ◆ ◆  「夜伽の時間です」  いつものように、無表情な声で侍従が扉の向こうからイリアを呼ぶ。イリアは、「分かった」と短く返事をして、自ら用意された衣装に着替えた。身体にフィットする感触が何とも言えず、イリアの根はすでに反応する兆しを見せていた。これから、ラザールの元へ向かう。ラザールに、イリアの開かれた蕾をほぐされる。そう考えただけで、欲望が全身から霧のように溢れ出すのを感じる。  ーーさっきまで、自分で自分を慰めていたというのに。  イリアは情けなさを感じながらも、同時に「花」として格段に力を増した自分に、誇らしさを感じてもいた。それこそが、イリアの求めるもの。さらに王に寵愛され、島で「力」を持つこと。  「蕾が完全に開いたとき、世界は大きくその色を変えるに違いない」  ミフリの言葉が、不意に脳裏に蘇る。確かに、イリアの世界は、いや、イリアから見えるこの世界は大きく変容していた。自分の動き、所作一つを取っても、「花」としての自信と、快楽を求める者としての「色香」に満ち溢れているのが分かる。奴隷として船を降りた時に見た、あの美しい少年や青年たちのように。  そんなことを考えていると、侍従が廊下を曲がりながら声を掛けてきた。 「イリア様、今日はこちらが夜伽の場となります」 「え…?」  王の間へ行くためにはその曲がり角を右に曲がるはずだった。しかし、侍従は左に曲がり、すぐ横に伸びている階段を上へとのぼっていく。  ーーどこへ、向かうのだろう?ラザールの元ではないのか?  内心、少しがっかりする気持ちを味わいながらも、イリアはすぐに平静を保ち、侍従に従い無言で彼らに続いた。やがて、階段をのぼり切った先に、細く伸びる廊下が見えてきた。侍従もまた何も言わずに、イリアをその奥へと導いてくる。しばらく歩いて辿り着いたのは、金と銀で彩られた、豪奢な扉。 「こちらが本日の夜伽の場ーー『兄弟の間』でございます」  侍従がうやうやしく頭を下げながら、扉を開く。その先で見たのは、思いも寄らぬ光景だった。広間の中央にはヴェールに覆われた巨大な寝台があり、そこに上半身裸の二人の男性が寝そべってイリアを待ち構えていた。  ラザールとエリオス。 「待ち侘びたぞ、リュサの花。蕾が花になった記念だ。今夜は、俺たちで“味見”させてもらう」  ラザールの声が響き渡る中、イリアは混乱した頭で二人の美しい身体を見つめていた。  ーー二人と、同時に?  かつてない夜が、幕を開けようとしていた。

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