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花、乱れる

「予想以上に美しい色の蕾だ」  最初にイリアを見つけた、毒蛇のような鋭い眼差しの男が言った。イリアは、生まれたままの姿で若い王子たちに囲まれ、全身を視姦されていた。顔や腕、根や蕾に至るまで、そこら中を舐め回すように見つめる彼らの視線は、いつもラザールから受ける寵愛とは別の何かーー本能を剥き出しにした獣のそれを思わせた。しかし、性脈の開かれたイリアの敏感な皮膚は、王子たちに見つめられるだけで紅に染まってゆく。 「ラザール殿、好きなようにして良いと申されましたな」  王子の一人が、広間の入り口に立つラザールに声を掛ける。ラザールは、イリアと目を合わせることもしないまま、はっきりと頷いた。 「もちろん、どのようにでもご自由に。彼は我が島に咲いた中でも特別美しい『花』です。ぜひ心ゆくまで味わい尽くしてください」  その言葉は、イリアの胸を深くえぐったが、王子たちには甘美な誘惑に聞こえたらしい。ラザールがそう言うと歓声が上がり、イリアを取り囲んでいた青年たちは一斉に彼の肉体に触れ始めた。口づけをする者、首筋や鎖骨に舌を這わせる者、薄桃色の胸の蕾を愛撫する者、そして、根の先端から溢れ出した蜜を舐めとる者…数えきれないほどの指や舌が、イリアの肉体を弄る。 「っん…はぁ…あ」  脳髄を貫くような甘美な刺激に、思わず喘ぎ声を漏らす。その度に、王子たちは歓びの声を上げ、複数の舌や指による愛撫が過激さを増す。イリアは、その異様な状況に意識が遠のいていくのを感じながらも、一つの強い視線を意識せずにはいられなかった。それは、広間の入り口に立ったままのラザールによるものだった。この姿を彼に見られているということ自体に、イリアはどこか歪んだ快楽を感じていた。  ーーどうして、こんな扱いを受けて悦んでしまうんだ…  ーー俺は、もう『俺』じゃなくなってしまったのかもしれない… 「ここが感じるのか?」 「いや、こちらもなかなか」 「見ろ、根も蕾も本当に敏感だぞ」 「すごい量の蜜だな」  淫らな言葉の数々が、イリアを打ちのめしながらも、快感を助長させる。すでに、イリアは堕ちていた。ミフリによって開かれた性脈のせいなのか、それとも、そもそも彼の中にそうした「素質」のようなものがあったのかは分からない。だが、とにかく今彼が感じている快楽が、本物であることは真実だった。ラザールは、そんなイリアの心を見透かしているかのように、優美な顔のまま身じろぎもせずに佇んでいる。  ーーいっそのこと、ラザールも加わってくれれば良いのに…  ーーそうすれば、もっと乱れられるはずだから…  そう考えているイリアの根を、一人の王子が舌先で愛撫する。またもう一人は、イリアの背後から彼をかき抱き、指先で蕾を刺激する。咲いたばかりの花を愛でる若き王子たちの欲情は止まるところを知らなかった。ラザールやエリオスから受ける寵愛とは比べ物にならないほどに強引だが、それがまた、イリアの身体に新鮮な悦びを刻みつける。 「っん…ん…は…あぁ」  淫靡な音色を紡ぎ出すイリアの唇を、毒蛇に似た眼差しを持つ男のそれが塞ぐ。息ができない。苦しい。だけど、気持ち良い。心と肉体がどんどん乖離していくのを感じながらも、口腔を蹂躙してくる男の舌が、イリアの官能を刺激してくる。イリアは、まるで王子たちに乱される自分を、斜め上から見下ろしているような、そんな奇妙な感覚に襲われた。  ーーもうどうなっても良い…  ーーとにかく今は、身を任せることしかできないのだ  イリアが甘美な喘ぎを漏らし続けているうちに、王子たちはいつの間にか身につけていた豪奢な衣服を脱ぎ捨て、その若々しい身体を晒していた。ラザールやエリオスほどではないが、逞しく天を仰ぐ根が、イリアの視覚を刺激する。あれで、蕾を貫かれるのか。一体何度達すれば、彼らは満足してくれるのだろう。そして、その間に、自分は何度達してしまうのだろう。  いくつものシャンデリアに照らされた大広間は、今や狂乱の宴の会場と化していた。どんなに美しい調度品も、豪華な食事も、「花」に群がる王子たちの欲望に飲み込まれ、もはや何の意味もなくなっていた。その中で、壮麗な衣装を身につけたラザールだけが、どこか異質な、冷静な眼差しでその様子を見守っている。宴の主催者である彼には、全てを見届ける責任があるのだろう。  イリアは、予想していた通り、立った状態のまま、若い王子たちの根によって蕾を幾たびも貫かれた。その度に、イリアの根もまた、白い蜜をほとばしらせ、それがさらに彼らの欲情を煽った。しかし、どうしようもなかった。「花」として目覚めたイリアの肉体は、自然と彼らを受け入れ、そしてそれを自らの悦びへと変えていた。イリアが達する度に、王子たちは歓声を上げ、そして再び飽きることなく、代わる代わる、イリアの蕾を貫いた。  何もかもが、最高で最低な夜だった。イリアは、「花」としての自分の才能を改めて実感しながらも、どこか頭の芯が冷えていくような矛盾した思いを抱えていた。  やがて、果てることを知らないような宴も終焉を迎え、王子たちは何事もなかったかのように豪奢な衣服を身につけ、広間を出て行った。そして後には、何も言わないラザールと、崩れ落ちるようにその場へ倒れ込むイリアだけが残されていたーー

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