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神々しき檻
シュリは、まるで舞を踊るかのように全身で愉楽を表現していた。
弓なりにそらされた体、まるで蝶のように優雅に動く四肢、時折唇から漏れる甘美な喘ぎ声は、まさに完成された「花」そのものだった。根から滴り落ちる蜜を、群がる男たちが丁寧に舐め取っていく。蕾や、胸についた薄紅色の突起を刺激される度に、全く異なるポーズで悦びを露わにする。
「は…っん…ああ…もっと…もっと欲しいよ」
イリアは体の内から湧き上がる火照りを感じながらも、その美しさに見惚れていた。目の前で繰り広げられているのは、美しい青年が無数の男たちに恥辱の限りを受けるエロティックな光景だったが、そこにはどこか聖なるものが宿っているかの如く、神々しい何かが存在しているように見えた。
ーー信じられない。
ーーこれが、完全に咲いた「花」の美しさなのか…
だが、感嘆のため息を漏らす一方で、不穏な感情が自らの中に生まれるのも、イリアは感じた。確かにシュリは美しく、神々しい。しかしその反面、男たちの捧げ物になっている姿には、まるで自らの肉体を完全に犠牲にする巫女のような痛々しさも覚える。
「花」として完成されるためには、ここまで無私に徹さなければならないのだろうか。何もかもを晒け出して、ただ悦びを感じるだけの「器」になるべきなのか。男たちの欲望を全身で受けながら喘ぎ続けるシュリは、美しくも悲しい存在であるかのように、イリアには感じられた。
「分かったかリュサの子よ」
エリオスが、食い入るようにシュリの性技を見つめるイリアに顔を近づけて言った。
「これが、「花」本来の姿だ。彼は兄上が手塩にかけて育てた完璧な商売道具。もしもお前が王の寵愛を受け続け、その蕾を完全に開花させるのなら、いずれこのような存在になる必要がある」
「か、彼は…」
イリアは正面を見つめたまま掠れた声で答えた。
「どのくらいこんな生活を続けているのですか?」
「もう三年になる。三年間、休みなく毎日のように近隣諸国の貴族や王族たちに抱かれ続けているのだ。もう一度聞くがイリア、…お前もまたこうなりたいか?」
ーー分からない…
ーー自分がシュリのようになりたいかだなんて。
イリアはエリオスの問いかけに沈黙で答えたまま、シュリの踊る舞を見つめ続けた。神聖なる舞踊は果てしなく続くように思えた。何度果てても、彼の根はその硬さを保ったまま、蕾は柔らかさを持ち続けたまま、男たちの愛撫を受け入れていた。それは、終わることのない儀式のようだった。
イリアが彼を見つめていると、一瞬だけ、シュリがこちらに顔を向けた。二人の視線がわずか数秒、交錯する。しかし、シュリの瞳からは性の愉楽以外どんな表情も見て取ることができなかった。イリアは思わず目を背け、無意識にエリオスの衣服の袖を掴んでいた。
ーー怖い、自分もあんな風になってしまうのだろうか…
ーーもしも「花」として完成されたら
「大丈夫かイリア?」
エリオスが心配したかのようにイリアの顔を覗き込む。
「もう、十分です…」
イリアには、そう答えるのが精一杯だった。
♦︎ ♦︎ ♦︎
その場を立ち去ると、エリオスはイリアを、水辺の庭園に建てられたあずま屋へと連れて行った。中の長椅子に二人で腰を下ろす。何も言わずにただじっと水草が風に揺れるのを見つめるイリアの肩に、エリオスの手が置かれる。そこには、イリアを気遣う確かな温かみが宿っているように感じられた。
「悪かった…俺も兄上と同じようなことをしてしまったな」
エリオスの言葉に、イリアは首を横に振る。
「いえ、大丈夫です。ただ少し、驚いただけで…あまりに完璧な、その…『花』だったから」
イリアがそう言うと、エリオスはわずかに眉をひそめて、小さな声で呟くように言った。
「お前の言う通りだ。あれは…シュリは、もう人ではない。完全な『花』になってしまった」
「完全な『花』…」
水辺を、涼しい風が吹き抜けていく。今はただその音だけを聴いていたいと、イリアは思った。あまりに非現実的な光景を見たせいで、水面を反射する午後の光と、水草の緑が眩しいほど美しく見える。しかし、この一時の静寂も幻に過ぎない。あれが、この島の本来の姿。自分もまた、ラザールの元で育てられれば、シュリのようになるのだろうか。残酷なほど美しく、性愛の神が宿ったような存在に。
「イリア…」
エリオスが、ボーッとしたまま水辺を見つめ続けるイリアの様子を見つめ、心配げに顔を寄せてくる。距離がだんだんと近づき、やがてそれは甘美な接吻に変わった。本来であれば、そこでイリアの蕾は疼きを感じていたに違いない。しかし、シュリの姿を目にした今、もはやイリアの体は「それ」を求めることすらも忘れていた。
「っん…ん」
ただただ、弟王の甘やかな唇を受け入れる。それは水面を吹き抜ける爽やかな風のような清涼感を、イリアにもたらした。ラザールのものとはまた違う、優しい口づけ。まるで、そう、愛しい恋人に向けてする接吻のような。
しばらく口づけが続いた後、しかしエリオスはあまりに意外な言葉をイリアに向かって告げていた。
「イリア、お前さえ良ければ…俺と一緒にこの島を出ないか?」
一瞬、何を言われたのか分からず、イリアの頭が真っ白になる。思わず顔を上げて隣に座るエリオスの顔を見上げると、そこには逆光で表情のよく分からない弟王の眼差しだけが存在していたーー
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