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紅に染まる夜

 半鐘の音が鳴り響くとともに、窓の向こうで一斉にかがり火が焚かれ、部屋中が赤く染まった。  閨の外で控えていた侍従たちが、わらわらと室内に押し寄せ、手に短剣を携えて、王を守護するように陣を作る。思わずラザールの胸にしがみつきながら、イリアは肩を震わせた。何が起こっているというのだろう。この悦楽の島で、有事が起こるだなんて。 「大丈夫だ、イリア。心配するな」  ラザールが、イリアを気遣うように顔を覗き込み、そっと優しく両肩を抱く。そのまま唇を合わせると、不思議と安堵が胸の内に広がるのが分かった。今はどんな護衛よりも、王の愛情だけがイリアにとっては心強く感じられる。イリアはラザールの首に手を回し、赤子のようにその逞しい肉体に縋った。 「何が…起きているのでしょうか?」 「分からない。だが、お前の身は必ず私が守る。リュサの子よ、お前は私の庭に咲いた最も美しい『花』なのだから」  その言葉を聴いた瞬間、歓びが込み上げるとともに、しかしどこか喉の奥に引っかかるようなものをイリアは感じた。昼間見たシュリの残像が、再び脳裏に浮かび上がってくる。もしここにいたのが彼ならば、同じセリフを、ラザールはシュリにも告げたのだろうか。そして、さっき自分にしたような甘い口づけを、シュリにもしたのだろうか。そんな余計な雑念が次から次へと浮かび上がって来る。  ーーいけない、こんな風に考えるなんて…  ーー今はそんなことを考えている場合じゃない。  「失礼いたします!」  裏返った声とともに、新たな侍従が閨の中に入って来る。赤く染まった室内でも、明らかに、その顔が青ざめているのが分かった。 「何が起こっているのだ?」  ラザールが、先刻までの甘い調子とは打って変わって威厳のある声で、侍従に尋ねる。その声色に込められた気高さは、まさに王そのものだ。半裸で寝台に身を起こしているだけだというのに、まるで背後から後光が差しているかのようなオーラが体中から発せられている。 「は、どうやら貴賓楼に何者かが火を放ったようで」 「貴賓楼に火を?まさか、誰がそんな愚かなことを…」  眉をひそめるラザールの横顔を見上げ、イリアは尋ねた。 「貴賓楼って…?」  王はイリアと目を合わせることなく、下唇を噛み締めながら短くこう答えた。 「完成された『花』が客人をもてなす館だ。中庭を抜けた先の島の端に建っている」  その言葉を聞いた瞬間、イリアの脳裏に昼間見た建物の姿が即座に浮かび上がった。シュリが無数の男たちに弄ばれて可憐な喘ぎ声を上げていたあの場所。きっとそうだ。あそこが貴賓楼に違いない。でもどうして、誰が一体そんなことを。  そう考えた瞬間、イリアの頭の中を不穏な考えが霧のように埋め尽くしていくのが分かった。エリオス。ともにこの島を出ようと誘った弟王。これは、彼の計画の一部なのだろうか?こうして騒ぎを起こしているうちに、彼は何かとんでもないことをしようとしているのではないか?いや、しかしいくら何でも急過ぎる。それに、俺はままだあの誘いに正式な返事をしていない。  不意に、体が冷えていくのを感じ、イリアはもう一度大きく肩を震わせた。ラザールの大きな腕が、イリアの体を包み込む。しかし、それは先程と同じような安堵を、彼にもたらしてはくれなかった。不穏な気持ちを悟られないように、イリアは顔を俯かせる。 「イリア、大丈夫か…?」 「はい、ただ鐘の音が恐ろしくて…」  イリアが小さくそう答えた瞬間、窓の外から大きな声が聞こえた。 「捕らえたぞ!」  ラザールがハッとした様子で立ち上がり、寝台を降りて窓の向こうへと近づいていく。イリアは、心臓が高鳴るのを抑えることができなかった。一体誰が、誰が捕らえられたというのだろう。もしそれがエリオスだったら。侍従たちに囲まれて腕を縛られている弟王の姿を想像しただけで、イリアは不意に意識が遠のいていくのを感じたーー ♦︎ ♦︎ ♦︎  カン、カン、カン…と半鐘が叩かれる音色が耳の奥で聴こえる。いや、違う。あれは誰かの声だ。可憐で、美しく、淫らな誰かの…喘ぎ声。 「あ…っん…んん…っはん」  闇の中に浮かび上がる陶磁器のように真っ白な体。黄金に輝く長い髪。見つめた相手を飲み込んでしまうかのようなブルーの瞳。  シュリだ…  イリアは、いつの間にか彼と交わっていた。二人とも全裸で向かい合うようにして抱き合い、互いの根を擦り合わせている。不思議と、彼にはそれが夢の中の出来事であることが分かっていた。体に実感の伴わない、宙に浮いたような夢特有の感覚。覚醒夢というものだろう。しかし、目の前の「花」が、圧倒的な美しさと官能美を兼ね備えていることだけは理解できた。 「イリア…もっと…もっと僕に触って」  自分の名など知らないはずなのに、シュリが口づけを交わしながらそう耳元で囁く。二つの根から滴る蜜が、互いの体を甘く濡らしていく。イリアは夢中でシュリの接吻に応えながら、その信じられないほど柔らかい白い肌に触れた。シュリもまた、イリアの蕾へと手を伸ばし、甘い刺激を与えてくる。 「んっ…ああ…っだめ…そこは…」 「どうしてだめなの?ここが一番気持ち良いだろう?」  シュリはゾッとするほど美しい笑みを浮かべながら、イリアの蕾を指で徐々に広げていく。甘い痛みとともに、背筋を快感が走り抜けるのを感じる。 「だって…だってそこは…」 「僕のこれを君のここに挿れたいんだ…そうしたら君は完全な『花』になる。僕と同じように」 「君と、同じように…?」  それ以上何も言えずにいるイリアの体を、シュリがまるで人形使いのようにくるりと回転させる。いつの間にか、イリアは四つん這いの体勢になり、シュリの根を迎え入れる準備をしていた。心とは裏腹に、イリアの根は「その瞬間」を待ち切れないかのように、ピクピクと上下に動いている。 「ん…っああ…君のここ…すごいよ…もう蕩けてる」  シュリの根が、イリアの蕾に沈み込んでいく。その華奢な肉体からは想像もできないほどに、それは太くて硬い。 「っああ…だめ…僕はっ…」 「だめじゃないだろう?だってこんなに感じてるし、それに何より君は…」  ーー完全な「花」になりたいんだろう?  その言葉を聞いた瞬間、夢はあっという間に覚め、目の前には信じられない光景が広がっていたーー 

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