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第一章 第1話 Witch is me-2

 ガサゴソとビニール袋から弁当を取り出すとクロの視線が音の方に向く。 「うにゃあっ! 」と江戸川に飛びつき膝の上でビニール袋と格闘をし始める。江戸川の膝で袋を引っ張るその姿は、まるで小さな戦士のようだった 「あはは! クロは袋が好きだもんなあ」 「うぉっと! クロすまねえが飯が食えねえよ」  クロと江戸川がじゃれあってるのを見ながら弁当を食べていると携帯の着信音がした。 「はい。もしもし?……そうですか。わかりました。」 「どうした? 」 「明日からのハロウィンイベントの設営、キャンセルになったって」 「あちゃ~! それ俺も申し込んでたんだ」 「残念だけど仕方ないな。まぁ僕はどちらにせよ行けなかったけど」 「どうしてだ? 今月給料少ない分バイトしたいって言ってなかったか? 」 「そうなんだけどさ。僕いつもハロウィン前は体調崩すんだよ。だから祖母ちゃんにもその時期は薬を飲んで家から出ないようにって昔から言い聞かされててさ。だからハロウィンってあんまり良い思い出ないんだ」 ハロウィンの話になると、なぜか胸の奥がざわつく。祖母の『家から出るな』という声が、遠くから聞こえる気がした。  特に20歳を超えてから余計にひどくなったような気がする。一度病院で診てもらった方がいいのかもしれないのだろうか。  考えあぐねて急に黙りこくった僕を心配したのか江戸川が聞いてきた。 「それって毎年なのか? 」 「うん。季節の変わり目だからかな? 何かのアレルギーかもしれないしね」 「……どんな感じになるんだよ? 」 「ん~。なんだかぼぅっとして熱っぽくなるんだ。すごく眠くなるし……よくわからない夢もよく見るよ」  江戸川が急に真顔になる。 「それって……その……どんな夢なんだ? 」 「え? よく覚えてないよ」  江戸川の濃紺の瞳が一瞬鋭く光った。 「夢って…時々、ただの夢じゃないこともあるだろ?」  どこか探るような口調に聞こえる。どうしたんだ?いつもの江戸川らしくない。 「何か感じるとかはないのか?」 「何を感じるの? ……え? 感じるって……エッチな話なのか? 」 「エッチな話!? って、待てよ! そういうんじゃなくて…!」  江戸川が慌てて否定し、顔を赤らめる。  なんだかわからないが僕はあまりそういった経験が少ない。  江戸川が言わんとしてるところが理解できなくて戸惑ってしまう。 「ミャアァ! 」とクロが僕たちの間に割り込んできた。  僕たちの気まずい空気を変えようとじゃれつきに来てくれたのかもしない。 (クロはいつも勘がいいね。ありがとう。)  首のあたり、顔周辺を撫でてやると、気持ちがいいのか大きく伸びをしてゴロンと僕の膝の上で寝っ転がった。  クロは江戸川に足を向けている。その足先がピーンと伸びて江戸川の膝を蹴る。まるで僕と江戸川の距離を離すみたいな格好だ。 「わかったよ! クロ怒るなよ。俺が悪かった。別にアキトを困らす気はなかったんだ」 「ごめん。僕は江戸川みたいにいろんな経験がなくってよくわからないんだ」 「いや、だからっ! そういうんじゃなくって……」  慌てて江戸川が僕に近づこうとしてクロに阻まれる。 「フーーーッ!! 」  僕の膝でくつろいでたのを邪魔されたと思ったのか江戸川に対して猫パンチの応酬を繰り出した。 「わ! なんだこいつ、やる気か? よし、こい!」  クロの猫パンチが江戸川の膝に炸裂し、彼は大げさに「いたた!やったなぁ。この黒い魔獣め!」と叫んだ。僕はそのバカバカしさに、弁当を吹き出しそうになりながら笑い転げた。  笑い声が響く中、突然窓の外でバチッと雷が光る。クロがピタリと動きを止め、窓の外をじっと見つめて唸り始める。  外は小雨なのに、まるで嵐の中心にいるかのような重苦しい空気が部屋に満ちる。そして、雷光に照らされた窓の外に、一瞬だけ、何かの影が揺らめいたような気がした。

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