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第一章 第2話 *おまじない*

 くしゅんっ! と江戸川がくしゃみをする。 「大丈夫か? 風邪ひいたんじゃないのか? 」  僕を気遣って雨の中食事を運んでくれたのに風邪など引かせちゃ大変だ。 「ん~? このくらいなんでもねえよ」  江戸川は小雨で濡れたままの髪を気だるげにかきあげた。鍛えられた上腕二頭筋に目がいってしまう。  あぁ。こういうのが男の色気っていうんだろうなあ。僕の軟弱な身体と違って彼の肉体は筋肉質だ。 「暖かいハーブティーでも淹れてくるよ。カモミールはどう? 」 「おう! 飲ませてくれ。淹れるとこ見てみたい」 「そう? じゃあ手伝って」 「んなあ~お」  今まで大人しくしていたクロも一緒についてきた。  この家の庭には僕と祖母ちゃんが植えたハーブが沢山育っている。  春夏のうちに収穫し陰干しにしドライフラワーにしたり粉末にしたりと家中にストックがある。 「アキトの家の台所、魔女の家みたいだ」 「江戸川いつも僕んちにくるとそう言うね」 「まあ……そうだな」  僕はティーポットにお湯を注ぎながら小声である言葉を呟いた。  小さいときから口にしてる単語たち。今では口癖のようになっている。 「今のはなんだ?」  江戸川が食いつき気味に聞いてくる。 「ん? あぁ。だよ」 「それは呪文じゃないのか? 」 「そんなたいそうなものじゃないよ。祖母ちゃんから教わったおまじないだよ」 「魔力がこめられてるんじゃないのか? 」  僕は何を言っているんだと笑い飛ばそうとした。だが、江戸川の瞳は真剣そのものだった。まるで、何かを必死に確かめようとしているかのように。 「……そんなわけないじゃん。うちの祖母ちゃんは面白い人でさ、いろいろなおまじないを教えてくれたんだ。かまどの魔人のおまじないとか喉に効くおまじないとか。現実的じゃないんだけどさ。夢があってボクは祖母ちゃんが好きだったから。その言いつけを守ってるだけだよ」  僕の言葉に、江戸川は微かに安堵したような、しかし同時にどこか落胆したような複雑な表情を浮かべる。彼がそんなにファンタジーが好きだとは思わなかった。  こぽこぽとティーカップに黄みがかったお茶を注ぐ。口にするとじんわりと体中が暖かくなった。よし、良い味が出ている。横を見ると江戸川も味わって飲んでくれてるみたいでとりあえずほっとする。 「これにはどんな呪文……おまじないをかけたんだ? 」 「ん? あぁ、江戸川の喉が潤いますように。身体が温まりますようにってね」 「そうか。俺の為に……か……」  ありゃ? なんだかまた顔が赤い? こいつまた照れてるのかな? 「にゃあぁ」  クロが自分もかまってほしいのか膝の上に乗ってきた。 「明日は雨が止んだらいいのにな」 「あぁ、そうだな」 大切な友人とクロと過ごせる穏やかな時間が僕は好きだ。このまま続けばいいのに。 ――――なんてその時は呑気に想っていたんだ。 ******  夜になって久しぶりに発作が起こった。体の中が熱い。チカラの塊が体中をうごめくみたいに熱がこもっていく。熱がでてきているのだろう。ハロウィンが近いからかな。  ……眠い。眠いのに感覚だけが研ぎ澄まされていくような感じ。体が重い。自分の体じゃないみたいだ。変だ。以前とはが違う。身体が熱い。でも熱いだけじゃない。  何かをしなければならないような。わかりそうでわからない迷路に迷い込んだみたいだ。薄暗い霧の中に一人取り残された感じだ。   夢はいつもおぼろげだ。だが感覚だけは覚えている。もちろん夢の中での事だけど。  やけに生々しくちょっとイヤラシイ夢……。 「ん……あつい。」  段々と身体が熱くなって苦しくなってくると、ざらついた冷たい舌が僕の身体をなめまわす。背筋を這い上がるようなひんやりとした感触が、なぜか甘美な痺れを伴い、思考を麻痺させる。気持ちいい、もっと、もっとと、理性が溶けていくのを感じた。  熱がどんどん1か所に集まってきて淫らな気持ちになってくる。敏感な場所をざらついた舌でなめられ身体がビクッて反応してしまう。 「ん……っ!……う」  体の奥からせりあがってくる快感に身もだえていると濡れた音が耳に届いた。  ちゅぷ……。ちゅっ……。 「え?……ぁっ!んん……」  誰かが喘いでる。誰? これは……僕? 僕が喘いでるのか? 「ぁ……。はぁ……っ!ぁ……あぁっ」  太腿の内側を撫でられるとぞくりした快感が走る。  心臓のドクドクという音が耳の奥で響き、徐々に意識が覚醒に近づく。誰かが僕の足元にいる。だが怖くはない。とても優しく触れてくるから。瞼が重い。でも誰なのか確認しなくちゃ。 「……っ……あん……」  うっすらと目を開けると僕の下腹のあたりで誰かの頭が上下に動いている。  はぁ。はっ……呼吸が荒くなってくる。 「ぁ……だれ? 」  僕の声に一瞬、動きが止まり誰かが顔をあげた。闇の中で怪しく瞬く、金色に光るふたつの瞳が、まっすぐこちらをみている。  そして、信じられない光景が僕の目に飛び込んできた。その口は、まさか、と僕が認識するよりも早く、僕の雄をしっかりと咥えたままで――。 「っ!!!!!!」  そのままジュルリっ!と大きな音を立てて吸われ、早急に擦りあげられた。 「あぁああっ!! 」  ジュボッジュボッと音が早くなっていく。 「やぁ……あっ……あっ……っ!! 」  僕はそのまま快楽の海に飲まれる。体の中を暴走していた熱が解き放たれていく。   静寂の中でごくりと僕の精を飲み込む音が響いた。

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