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第一章 第5話 クロードside
―――――可愛くていじめたい。アキト様はまだ純粋無垢だ。その純粋さに触れるたび、私の内側に潜む獣が、より強く彼を求める。
よくもまあ魔女に育てられたのにこうも純真でいられたものかと不思議で仕方がない。それもあの自由奔放破天荒なマリー様がこれでもかと溺愛されたのだ。
「すぐに騙されそうで心配だからあまり外にだすんじゃないよ」
アキト様は成長するにつれて妖艶になられてきた。生まれ持った【力 】のせいらしい。このままではいろんな意味で狙われてしまうとマリー様が慌ててめだたないようにめくらまし魔法をかけられた。それによって他者からは必要以上に気にかけられる事はなくなったが同時にアキト様は孤立することが多くなった。
魔女の独占欲によって箱入り息子の出来上がりだ。
それでも才能は開花していき、手に取るだけでハーブの効能を言い当て、薬も精製できるようになる。おまじないと称してマリー様が教えた回復呪文もなんなく使えるようになる。素晴らしいことなのにアキト様は恥ずかしがって表にださない。何よりそれが普通の事だと思われてるのだ。
そのうえ、のほほんのぽよよんだ。受け答えもふわふわしている。魔女ならもっと闇の部分も教えれば良いのに。
マリー様は最後まで選択肢をアキト様に残した。
『アキトがもしも覚醒しなければ別の道を歩ませてやってくれ』
それがマリー様の最後の願いだった。だからあえて闇の部分を見せなかったのだ。
人間界では真夜中以外は私は黒猫の姿に変えられた。アキト様は毎晩私を抱きしめ眠られた。とてもかわいい。こっそり真夜中に人型に戻って抱きしめ返していたのは言うまでもない。
大学に入るとともにアキト様は熱にうなされる日が出てくる。
魔女の血のせいだ。しかし覚醒には至らない。私は定期的に熱をとって差し上げることにした。この頃からマリー様は体調を崩されるようになる。
『私は力がなくなってきてるので魔力はアキトからもらいなさい』と言い渡された。
つまり私がときどきアキト様の熱をとっていた事を知っていたのだ。
『一番いいのはお前とアキトが互いの体液の摂取や交換することなんだけどね』などとさらりと怖い事を言う。それがどういう意味か。わからず言っているのではないだろう。
その言葉が、私の心の奥底に、甘く、そして抗いがたい毒のように染み渡った。
やはりこういうところは魔女だなと思う。アキト様を想っているようで毒も込める。だがそうなりたいと思う私も魔の血が流れて入るからなのだろうか。否、これは血など関係ない。ただ、私は彼が欲しいのだ。アキトのすべてを。
彼は異世界にきて戸惑ってるせいか私を信用しすぎている。今の私は黒猫の姿じゃなく獣人だというのに。その柔らかな肌に私の爪を立て、唇を這わせ、その純粋な反応をすべて見てみたいという衝動に駆られる。それなのに。アキト様は無防備すぎる。
歩き疲れたのか小屋に入るとふらついている。すぐさま私は彼を横抱きにして膝の上に抱え込んだ。疲れているのか抵抗もせず身を預けてくる。
(ううっ。可愛い。)
長いまつげの間から黒曜石のような瞳が垣間見える。血の気の薄いピンクの唇が何か言いたげだ。気分はどうかと尋ねるとやはり少し具合が悪そうだ。何か気になる事でもあるのだろうか?まさかアイツのことだろうか?
「アキト様。誰の事を考えてらっしゃるのですか? 」
「え? 江戸川……」
やはりアイツのことを考えていたのか。胸がきりりと痛む。
「私が目の前にいるのに? 」
意地悪気味に尋ねてみた。どう答えてくれるのかが知りたかったからだ。
それなのにアキト様は急に動揺され私から目を逸らした。目じりの端が赤くなっている。
(なんだこの顔。可愛すぎるっ)
「いや、あの、あいつは数少ない僕の友達だし」
「へぇ~え。友達ですか? では私は? 」
急にイジメてみたくなった。さぁどう答える? 貴方にとって私はどういう位置なのだ?奴と同じ「友達」で満足するほど、私は寛大ではない。
「へ?あ~、えっとそのクロは僕の癒しでどんなに嫌なことがあってもクロに触れたら幸せになれるっていうか。寝る時だってクロがいてくれたら安心するというか……」
「私は抱き枕ですか? 」
「そっそんなんじゃないっ。確かにモフモフしてて毛触りだって最高で抱きしめたいけど。それよりも。心の支えだったんだ。クロが居てくれたから僕は独りじゃなかった」
(あぁ嬉しいっ。私を必要としてくださってるのですね!)
望まれるならベットに入るときだけ猫の姿になって差し上げても良いですよ。ベットに入る時だけですがね。そこからは私の好きにさせていただきますが。
顔を赤らめて反論する姿が本当に可愛らしい。これで22歳の青年だなんて。
私が守ってあげたいという庇護欲 と虐めてやりたいという嗜虐的 な感情が交差する。
―――――さて、どうするべきか。
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