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第一章 第7話 追いかけて異世界

 クロードが僕の髪を撫でながら愛しそうに見つめてくる。なんか恥ずかしいんだけど。  いやもっと恥ずかしいことシた後なんだけど今頃になって照れてしまう。そうなんだ、あれこれ順番が逆のような気がする。スる前に照れたりドキドキするのが普通だと思うんだ。  ドンドンドンドン!!!  いきなり小屋の扉をたたく音で現実に戻された。 「アキト! 俺だ! 江戸川だ! 開けてくれ」 「江戸川? クロ開けてあげてよ! 」 「アキト!! 」  扉の前には江戸川が本当に立っていた。だがアキトの前にクロードが立ち塞がる。 「ここは異世界ですよ。普通の人間が転送されて来るなんておかしいと思いませんか? 」  クロードの言葉にハッとする。だが危機感がないのだ。未だに夢ではないかと疑う自分もいる。 「それも全部説明したい。だからアキトと話をさせてくれ」  江戸川が悪いヤツとはどうしても思えない。今の現状を誰かに説明もして欲しかった。 「クロ。いいよ。僕も話しがしたい」 クロードが渋い顔をして体をひいてくれた。江戸川が小屋の中に入ってきた。 「アキト。大丈夫か?」近寄ろうとするのをクロードが静止する。 「それ以上アキト様に近づかないで下さい」 「さっきからお前はなんなんだ?」 「彼はクロだよ」 「クロ? あの黒猫か!?」 「だからなんですか? 貴方こそ何者なのですか? 」  クロードが苛ついた様子で江戸川を睨む。 「お前がアキトをさらったんだろう?!」 「何を言いがかりをっ! 貴方こそどうやってここに来たんですか!」  まるで僕の話を聞く気もないように二人で胸倉をつかみ合いだした。 「いい加減にしろ……お前ら僕に説明する気はないのか? 」  自分でも驚くくらい冷たい声が響いた。二人とも急に青い顔になった。身勝手な二人になんだか無性に腹が立って仕方がない。 「すまない。」 「申し訳ありません」 「謝る前に説明しろ。」  わざと横柄な口調で聞いてやる。 「まずアキトの居場所が分かったのは、この探索魔道具を使ったからだ。これを使ってここまで転移した」  江戸川はポケットからひし形の透明な鉱石を取り出した。手のひらに乗せるとくるくると回り始める。よく見ると透明な鉱石の真ん中に黒い髪の毛が一本埋め込まれていた。 「これはお前の髪の毛だ。何かあった時のために1本もらっといたんだ」  はあ? なんですと? 僕の髪の毛を抜いて隠し持っていたと? 「怖いよ。江戸川がストーカーだったなんて知らなかった」 「へ?違うっ。いや、違わないかな。お前に執着してる点ではそうなのかな? 」  おいおい、真顔でいうなよ。ストーカーなんて嫌だぞ。 「執着する理由を聞かせてくれよ」 「そうだな。まず俺の名前はエドガー・ヴラド・ポーツラフ。この世界の住人だ。理由あってドラゴンの秘宝を探してる。そのありかを示すものを君は君の祖母から譲り受けてるはずなんだ。」 「はあ? なんだって?」 「形見分けとかてことなのか? 何ももらってないけどなぁ」  祖母ちゃんからは【なるようになるさ】という口癖のとうり形見の品らしきものはなかった。 「目に見えるものではないのかもしれませんね」  クロードがもっともらしい口調で割り込んできた。 「ん~。仮に僕が持っていたにせよ、なんでお前が僕にたどり着いたんだよ!」 「それは異世界に通じる何でも屋のツッツファーレに聞いたんだ」  なんと便利な職業があるもんだ。僕が思っているよりこの世界はぶっ飛んでるのかもしれない。 「この魔道具もそこから調達した」 「魔道具が使えるということは多少は魔力をお持ちなのですね? 」 「そうだ。何ならこの場で魔力対決してやってもいいぜ」 「やめろってんだろ! 僕に協力を得たいなら僕を納得させる説明をしろ! 」 「美形は怒るほどすごみが出るんだな」とエドガーがため息をした。 「私も初めて見ました。身震いしますね」クロードも肩をあげてみせる。  美形? 誰の事だ? そんなことでごまかされないぞ。   「江戸川って偽名だったのか」 「元の名前のエドガーからもじって、江戸川と名乗っていたんだ」  ほとんど語呂は同じだものな。 「じゃあ、お前もアキトって呼んでるんだから僕もエドガーって呼び捨てにするぞ」 「ああ、もちろんかまわないぞ。むしろ、そっちのほうが嬉しい」   「ではエドガー。お前、僕に一度も秘宝とやらを探してるって言わなかったじゃないか」 「それとなくは何度も言ったぞ。でもお前には嫌われたくなくって強く言えなかったんだ。秘宝を探すのが目的で傍に居るんだって思われたくねえしな!」  そうか探しものの為に僕を利用するんじゃなくて友達なんだって言いたいんだな。 「ありがとうエドガー。僕も君の事は友達だって思ってるよ」  にこにこと笑顔で答えてみせるとエドガーはがっくりと肩を落とした。 「なんでそうなるんだよ……」 「プッ! くくっ」クロードが肩を震わして笑っている。 「何笑ってんだよクロ。僕は怒ってるんだぞ。だいたいお前もこの世界の事を最初に僕に教えるのが当たりなんじゃないのか!? それなのにあんなことを優先してっ」 「あなたにとってあんなことでも私にとっては何より大事なことです……しかし、言われてみればそうですね。獣人の身体になれて舞い上がってたせいかもしれません。すみませんでした」  クロードの猫耳がしゅんと垂れてしまう。可愛いな……。 「おまえら……ナニかあったんだな? 」  エドガーの顔が険しい表情になる。 「クロ、てめえこっち側の住人だろ? なんでアキトといたんだ?」 「私はアキト様をお護りし体調管理含め生活全般の世話をするためにいるのです」 「体調管理? 」 「そうです。例えば……魔力が暴走しない様に熱をとって差し上げるとか」  クロードが僕を引き寄せ額に自分の額をあてた。金色の瞳が間近にせまり僕の鼓動が跳ね上がる。 「ふむ。熱はないようですね」  僕たちを見るエドガーの視線が痛い。 「さあ今夜はもう寝ましょう。明日は町に行ってみましょうね」  クロが僕の頬に手を当てると何かを唱えた。急に眠くなったのは今日一日いろいろありすぎて疲れていたせいなのかもしれない。クロのしっぽが僕の腰にぐるりと巻き付いている。ちょっと可愛いと思いながら意識を手放した。 ◇◆◇ 「クロっ! お前わざと俺に見せつけてるだろ! 」  エドガーがクロードにくってかかる。 「私をクロと呼べるのはアキトだけです。私はクロード・レオ・パルドスと申します。エドガーさん」 「くそっ! お前俺を誰だと思って居るのだ」 「理不尽なことをアキトの前でするつもりですか? 権力でねじ伏せるのですか? 」  やはりクロードは俺の事を知っているようだ。 「そういうのは嫌いだ。アキトに嫌われそうな事はしたくない」 「ええ。アキトはのほほんのぽよよんですが芯はしっかりされてるので曲がったことはお嫌いですよ」 「のほほんのぽよよん。なるほどな」 「それで貴方はどうなさりたいのです? 」 「それが自分でもわからないのだ。こんなにも一人の人間に捕らわれたことはない」 「……私もですよ」

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