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第一章 第11話 何でも屋ツッツファーレ
目を覚ませば夕方ちかくになっていた。クロードの精を接種してから魔力の吸収力が増えたのだろう。耳が良くなってきた。以前とは身体の作りが変わってきてる気がする。
睡眠をとる事によってもそれまでの情報が頭の中で整理され、その日に起こるだろう断片が垣間見れる。予知夢のようなものであろうか? 夢で見たのは馬車に乗る自分の姿とエドガーのすまなさそうな顔だった。
バタバタと騒がしい音とクロードの話声が聞こえてきた。きっとエドガーが帰ってきたのだろう。 部屋の扉がそっと開けられた。
「……起きてたのか? 大丈夫か? 」
心配そうな顔でエドガーが部屋に入ってきた。
「おかえり。今起きたところだよ」
「ただいま! へへ。なんかお帰りって言われるのっていいな」
嬉しそうにニコニコ笑う姿はあどけなく見える。あぁ本当にエドガーっていい奴だなあ。僕は良い親友を持った。クロードと二人でエッチなことしてたなんて言えないよ。ごめんね。
「エドガー、一緒に買い物に行けなくてごめんよ」
「いいって。次は行こうな」
「エドガー。アキトは熱が下がったところです」
クロードのせいで熱が上がってしまった気がする。腰が痛いし、何か後ろにまだ挿入されてるような違和感もある。さきほどの事を思い出して顔が赤くなる。
「そういえばまだ顔が赤いなあ」
「そうですね。あまりハードな旅は無理だと思います」
エドガーとしては竜の秘宝がありそうな土地を手あたり次第に回るつもりだったらしい。 クロードからはすぐに却下と計画性のなさにあきれられていた。
「ったく! まずは封印を解く品々を集めることが先決でしょう? 勇者の先祖の品ならエドガーの手元にあるのではないのですか?」
「そうだな……宝物庫あたりに隠してるんじゃねえのかな? 」
エドガーがすまなさそうな顔をする。この顔だ。目覚める前に見た夢だ。ではあれはやはり予知夢か? それに宝物庫って? ついつい今までと同じ感覚で接してしまっていたけど、エドガーは本当にこの国の皇子なのか。
「一旦戻らねえといけないのかなあ。できれば一番後回しにしたいんだけどな」
エドガーは自分の金髪をがしがしと搔きながら苦笑いをする。
ふいに、意思を持った足音が近づいてくるのがわかった。
「待って。誰かくる!……エドガーに用があるみたいだよ」
「え? アキト。なんでそんなことがわかるんだ? 」
「ぁ、えっとね。この世界にきてから少しづつ魔力が増えてきてるというか」
嘘ではない。元の世界よりこちらに来てから、体内にめぐる魔力というのを感じる事が多くなった。それはクロードの精のおかげかも知れないけど。
「すげえ! やっぱりアキトは魔女だったんだな! 俺さ、本当はアキトと一緒にいられるならお前が魔女でなくてもいいと思ってたんだ。一緒に居る理由が欲しかったんだ。でもこれで親父や兄貴たちにも紹介できる! オレお前が好きなんだ!」
クロードが眉間にしわを寄せて睨みつけている。どうしたんだろう。そんな怖い顔をして。
「ありがとう。エドガー僕も好きだよ。君の家族に会わせてくれるの? お兄さんいるんだね?」
親友の家族かぁ。家族ぐるみで付き合おうってことかな? 僕は家族がいないから羨ましいなあ。
「あぁ。上に二人いる。長男がユリウス。次期国王候補。次男がラドゥ。副将軍または国王補佐かな。俺は第三皇太子だから継承権はあんまり関係ねえんだ。だから好き勝手してるんだけど……」
話の途中でトントンと扉をノックする音がした。
「エドガー様はいらっしゃいますか?」
「俺はここにいる。その声はツッツのものだな?」
いつもと違うエドガーの威厳に満ちた声にちょっと驚く。扉を開けると少し小柄な狐っぽい男が顔をのぞかせた。茶色のふさふさの尻尾が揺れている。
「お前、俺単独でなくわざわざここにまで来たという事は」
「はい。今までは貴方様の力量を図らせていただいておりましたが、今日からはお供の方々にも顔合わせをしておこうと思いまして。アキト様、クロード様お初にお目にかかります。私めはフォキシーと申します。」
フォキシーは商売人のような食えない笑顔を見せてきた。
「私たちの名前ももう調べ済ということですね? 何が目的ですか?」
「ははっ。クロード様は手厳しい。貴方は宰相、いや賢者の素質がおありですね。私ども何でも屋のツッツファーレは代々契約に基づいた方にお仕えさせていただいております。特にこの世界の王家には忠誠を誓っております。この度はエドガー様と一緒に旅に出られるとのこと。私めも顔つなぎさせていただこうと参上しました」
「堅苦しい挨拶は抜きだ。なんで俺に会いに来たか言えよ!」
「そうでしたそうでした。実は王様の体調があまりよくありません。一時期止まっていた呪いがまた少しづつ進行し始めたとのことです。エドガー様には一旦王都にお戻りをお願いしたくやってまいりました」
「なんだと? 親父の石化がまた始まったのか?」
「はい。それと、ラドゥさまが床に臥せっておられます」
「え? 兄貴が? なんで?」
「実はエドガー様には心配かけるから言うなと口止めされていたのですが、ラドゥ様はここ半年ばかり体調がすぐれない日々が続いておられます」
「まさか。竜の呪いが兄貴にも影響を及ぼしてるのか?」
「ユリウス様はそうお考えです」
「ふむ。ユリウス様は、というのはそうじゃないと考えられる方もいるということですね」
クロードが片眉をあげた。渋くてカッコいい。エドガーのお父さんと兄さんがなんだか大変なことになってるみたいだ。竜の呪いは石化だったのか。
「はい。ラドゥ様の側近は宰相のコーネリアス様を疑っておいでです」
「なんだと! コーネリアスがなんでラドゥ兄貴に手を出すんだよ」
「次期国王の座を固めたいためです。ユリウス様は武闘派な方ですが、清廉潔白すぎるところがあります。ラドゥ様は美男公と言われるほど容姿端麗で、温厚な方の為、人望が厚く彼を次期国王にという声もございます。そのために、ユリウス様側近の宰相殿が、毒をもっているのではないかと」
堅物長男と温厚な次男か。エドガーはその二人の中間って感じなのかもしれない。
「はい。しかしあくまでも噂でございます」
「ラドゥ兄貴は母上似だからなあ。でも、アキトほど妖艶で綺麗な男はいない。アキトと比べたら兄貴なんてたいした事ないのにさ」
エドガーのお母さんは小さい頃に亡くなられたらしい。そのせいか小さい頃から次男のラドゥさんにくっついていたそうだ。お母さんの面影を追ってたのかもしれないな。
「エドガー。明日朝いちばんに王都に行こう。王様たちが心配だよ」
「アキト。ありがとう。お前から言ってくれるなんて。嬉しいよ!」
「では、私は明日朝お迎えに参ります。一緒に同行させていただきますね」
「げっ!なんでお前も来るんだよ」
「ツッツファーレとしてでございます」
「ふむ。それは私とアキトの力量をみたいから、と言うことでしようか? 」
「さようでございます。さすがはクロード様です」
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