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第一章 第12話 襲撃

 朝早くからフォキシーがやってきた。しかしエドガーがいない。どうやら昨日買った装備の一部を返品しにいったらしい。王都に行くなら最上級の装備を王に用意してもらおうという話になったからだ。 「エドガーにはいつか借りを返さなくちゃいけないな」  宿屋の前には見るからに高級そうな馬車が止まっている。王家御用達って感じだ。昨日は気づかなかったがよく見ると引いてるのは馬じゃないようだ。目が三つあった。左右と正面についている。これで240度視界が見渡せるらしい。ムーという生き物だった。  先にクロードと二人で馬車に乗り込む。フォキシーは御者だ。手綱さばきが上手いらしい。 「悪いな待たせちまった」  ニコニコと白い歯を見せてエドガーが笑う。 「ううん。大丈夫だよ」 「くぅ~。朝から良いもんみれた。お前の笑顔は最高だよ!」  まぶしそうに目を細めながら照れるように笑ってくれた。朝のひかりがまぶしかったのだろうか?  「それより、ごめんね。昨日からずっとエドガーに買い物に行かせてばかりで」 「そんなのたいした事ねえよ。それより体調はどうだ?」 「うん。今日は大丈夫。昨日沢山寝たから元気になったよ」 「そっか。よかったな」  町を離れしばらくすると急に馬車が止まった。 「どうした?! 落ち着け!」  フォクシーが何か叫んでいた。手綱が取れないようだ。ムーが暴れているのか? 馬車の周りに何かが近づいてくる気配がする。 「クロ! エドガー! 囲まれてる!」 「あぁ。俺にもわかる。これは殺気だ!」  なんでいきなり? 盗賊か? 馬車が豪華すぎたから金持ちだと思われたのかな? 「アキト出るなよ!」 「すぐに戻ります!」  エドガーとクロードが馬車から飛び出した。ガキィーンッ! キィンッ! 剣がぶつかり合う音が聞こえる。  ドスドスドス! なにかが馬車に刺さった音がした。弓矢か?! 「ぎゃっ!」前方で声がした。御者の位置だ。フォクシーがやられたのか?!  くそ! 僕はこんなにも非力だなんて。僕にできることはなんだ? 音に集中し神経を研ぎ澄ませた。 「エドガー後ろだ! クロード左だ! 右後方から矢が飛んでくる。後方に弓の達人がいる!」  馬車の中から叫ぶことしかできなかった。魔力があるのならこの力を使いたい。 急に静かになった。襲撃犯たちはみんな逃げてしまったようだ。 「アキト無事か?! 」  バン!と扉があきエドガーが覗きこんできた。 「あぁ。もう表に出てもいい? 」 「いいぜ! お前凄いな! お前のおかげで戦いがスムーズに進んだぜ! 」  え?どういうことだ? 何か役に立ったんだろうか? 「ええ。アキトが指示をしてくれたので背後のリーダーを先にやっつけれましたからね」  どうやら弓矢使いがこの襲撃のリーダー的存在だったらしい。 「そうなの? よかった。少しは役に立てたんだね」 「皆さま無事でよかったです……」  フォキシーが肩をおさえながらこちらへ歩いてきた。 「大変じゃん! さっきの矢に射抜かれたの?」 「アキト、治癒魔法をかけてやってくれませんか?」 「え? どうやって? もしかしておまじないのこと?」 「はい。貴方のおまじないはこの世界の呪文と同じなのです」  きっと今の僕は前より魔力が上がってるはず。試してみるしかない。 「フォキシーさん痛かったらごめんね」  フォキシーの肩に手を当て傷が塞がりますように思いを込める。パアっと光ると傷は塞がっていた。 「おお! これはすごいっ!」 「成功した? 痛くない? 大丈夫?」 「ええ! ほら、この通り」  フォキシーが目の前で肩を動かしぶんぶん腕をふってみせた。よかった。これで少しはみんなの役に立てるかもしれない。僕にもできることがあってよかった。 「しかしただの強盗でしょうかねえ? 」 「フォキシーお前なにか知ってるのか? 」 「昨日、エドガー様を向かいに行くと王宮に連絡を入れたんですよ」 「何それ? 王宮の誰かがエドガーを狙ってるってこと? 」 「さあそれはわかりませんが、あまりにタイミングが良すぎるのでね。ちょっと気になりましてさぁ」 「くそっ! さっきのやつら捕まえればよかった」 「ふむ。とにかくここから先は警戒したほうがいいようですね。王宮に入っても気を許さないようにしましょう。エドガー、特に貴方の周りは警戒したほうがいいのかもしれません」 「たとえ、兄上であってもという事か」 「そのとおりです」  再度僕たちは馬車に乗り明るいうちに王都に着こうと道を急いだ。 「エドガー。一つ言っておきます」  クロードが神妙な顔で話しかけてきた。 「なんだ?」 「アキトを育てた魔女は彼に闇魔法を教えませんでした」 「へ? それって」 「そうです。アキトは攻撃魔法が使えません。王都についてもアキトを一人にしてはいけません」  そうなんだ。知らなかった。僕は攻撃魔法が使えないのか。 「攻撃魔法って教えてもらったらできるようになるの?」 「それはまだわかりません。属性にもよりますし、何よりあなたはまだ覚醒してないので」 「覚醒って何?」 「申し訳ありません。私も時が来ればわかるとしか聞いておりませんので」 「それって祖母ちゃんから?」  また祖母ちゃんか……。いったい、貴方は僕に何をさせたいの? なんで教えてくれなかったのさ。  異世界移転させたのも祖母ちゃんなんだろ? 答えが欲しいよ。

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