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第一章 第13話 王都へ-1

 王都に着いた途端に馬車の窓から見る景色がガラッとかわった。建物がいきなり近代的になり過ぎる。 「あれは保育ステーションだ」  まるで元の世界で流行っていたモンスター育成ゲームの中に出てきた施設みたいだ。卵の管理や状態をみたりする施設で人工孵化装置などが配備されてるという。  この世界ではどの種族も卵から生まれるんだった。人間も卵で産まれる。不思議だ。  卵は種族よって獣人族は3~4ヶ月。人間族は5~12ヶ月。で孵化するらしい。 「魔族は魔力量によります。竜族は数年から数十年。100年近いこともあります。」 「へ? 100年って親は子供の成長をみれないの? 」 「寿命のことですか? 竜族は長命なので500年~1000年近く生きますよ。ちなみに獣人族は60~80年。人間族は80~120年。魔族は300~500年ぐらいでしようか?」  つまり、人口比率が多い獣人は短期間で卵が孵化しやすいが短命。逆に長命な竜は卵が孵りにくいのか。  でもそれって……。 「クロードは獣人だよね? 僕より早くいなくなるの? そんなの嫌だよ」 「アキト。私は今は獣人の姿ですが本当は……」 「アキト、そんなにクロードが心配なのか? 俺とこいつとどちらが好きなんだ?」 「え? エドガーどうしたの? 急に」 「俺がお前を王宮に連れて行く本当の意味をお前はわかってるのか?」  エドガーが怒っている? 何故だ? 旅の仲間のお披露目じゃないのか? どう答えようかと考えあぐねているうちに王宮の門についてしまった。気まずい。どうしよう。    馬車の外からフォキシーの動揺した声が聞こえる。 「お待ちください!」  エドガーが馬車の扉を開けた途端に逞しい腕に掴まれて馬車の外へ引きずり出された。  慌てて僕とクロードが馬車から降りると体格の良い美丈夫がエドガーを羽交い絞めにしている。  背が高い。2メートルはあるだろうか? その上筋肉質で服の上からでも体形の良さがうかがえる。肩からなびくマントに黒地に金の細かい刺繍入りのフロックコート。目を引く黄金の長髪に褐色の肌。スカイブルーの瞳。そしてエドガーとよく似た横顔。王族に違いない! 「このっ! 馬鹿者めが! 父上や私がどれだけ心配したかと思っておるっ!」  「ぐぉおっ! いでででっ!」  呆気に取られてる僕とクロードに気づいたのか美丈夫がこちらを見た。 「……黒髪に黒い瞳っ?! なんと美しい」  彼の視線は僕に向けられていた。突然エドガーをポイっと放り出すと僕に手を伸ばしてきた。  そうだった。この世界で黒髪黒目の人間族は珍しいんだったっけ。  クロードが身構える。僕を庇うように前に出た。 「っ! 兄貴っ!アキトに手を出すな!」   兄貴というとエドガーのお兄さん? この体形からすると長男のユリウスさまか?  エドガーは腰の剣に手をかけたまま睨みつけていた。 「そこまでです!!! 」  パンッ! と手を叩く音が聞こえたかと思うと几帳面そうな男が立っていた。銀髪で切れ長な瞳。白のフロックコートにマントをひるがえして足早にこちらに近づいてくる。三角耳にふさふさ尻尾。銀狼か?  「ユリウス様! 王宮の入り口で何をされてるのですか?! 兄弟げんかもほどほどになさい!」 「……コーネリアス。……俺は普段はこんなことはしない」 「わかっておりますよ。久しぶりに弟君に会えて嬉しかったのでしょう? さあさ、とりあえず中に入りましょう。君たちも怖がらせて申し訳ありませんでしたね」  丁寧にお辞儀をすると僕たちを王宮内部へと通してくれる。フォキシーはいつの間にか消えていた。 「さあ、こちらへどうぞ」  コーネリアスと呼ばれた男が部屋の前の執事に声をかけた。 「エド! おかえり!」  執事が扉を開けると共に美しい男性がアキトに抱きついてきた。 「兄貴、俺はこっちだ」 「あれ? えっと……わあ、綺麗な子だねぇ。艶のある黒髪がさらさらしてるよ」 「俺はこっちだ! 兄貴っアキトから離れろ」  2人目の兄貴? っていうならラドゥさんなのかな? めっちゃ美人。肌は透けるように白く背が高い。胸板が思ったよりも厚くて程よい筋肉がついててる。いや、これは抱きつかれたからわかるのであって変なこと考えてるんじゃないよ。  絹のような長い金髪の髪の毛が揺れている。瞳はダークブルーだ。目が大きくって優しい顔立ち。フリルのブラウスに黒のタイトなパンツ。ラフな格好なのに王子様オーラが凄いよ。  ぺりって感じでエドガーが僕からラドゥさんを引き離した。 「ごめんごめん。久しぶりに弟に会えると思うと嬉しくって抱きついちゃったよ」 「だから、俺に抱きつけよ! なんでアキトなんだ?」 「ん~~~! 我が弟よ! よく戻った!」 「ふぐっ!」  ラドゥはそのままエドガーをぎゅうっと抱きしめて頬ずりをしている。 「わ……わかった。わかったから。恥ずかしいよ」 「そうかそうか。また大きくなったな」  この兄弟達の仲の良さは羨ましいかぎりだ。特にエドガー。君は愛されてるね。こんなので後継者争いしてるってほんとなのかな? 嘘であってほしい。   執務机の椅子に足を組んで、どっかりとユリウスが座っている。真正面の三人掛けソファーにエドガーが座りその隣に僕。僕の隣にクロードが座った。傍にある一人掛けの椅子にラドゥが座りその後ろに側近が一人立っている。コーネリアスは紅茶をテーブルに配っていた。執事もするのか? 「私はコーネリアスと申します。ユリウス様付の宰相です」  ではフォキシーが言っていた次男のラドゥに毒を盛ったと噂されてる人なのか? 「俺がユリウスだ。弟が世話になってるらしいな。すまない」  金髪の美丈夫が第一皇太子のユリウスで間違いないんだな。案外良いお兄ちゃんなのかもしれないじゃないか。武闘派と聞いたけどエドガーと一緒で筋肉バカっぽいのかな? 清廉潔白っていうのも見た限りそんな印象はないし。そのイメージはコーネリアスのせいかもしれないと感じた。 「はじめまして。私はラドゥ・ヴラド・ポーツラフ。エドが迷惑をかけてるんじゃない? 」 「いいえ。エドガーにはいつもお世話になっています。はじめまして。内泉あきとです。隣にいるのはクロードといいます。僕たちはこれからエドガーの旅の仲間になるつもりなんです」 「おや? いい子じゃないか。隣の男前さんも素敵だね。それにしても【Witch is me(僕は魔女)】とはな……。」 「それっ。ラドゥ兄貴も気づいた? すごいだろ? 」  エドガー前も同じこと言っていたな。僕の姓の内泉がWitch is meに聞こえるって。だから自己紹介するときに『僕は魔女のアキトだよ』って言ってるのと同じだよって。この世界でも英語通じるのか?  エドガーおずおずと話し出した。 「えっと……まず。その……長らく兄貴達に連絡もせずに済まなかったと思ってるよ」 「思ってはいたのか? 」 「そりゃあ。でも何の成果もなくってさ。報告なんぞできなかったんだ」 「生きてるかどうかだけでもできたはずだろうが?」 「ユリウス様。兄弟げんかはほどほどにしていただけないかと私は言ったはずです。まずはエドガー様の話を聞いてみましょうか? 」  コーネリアスの口調が冷たい。ユリウスの顔色が青くなった気がした。だがこれでさっき何故険悪なムードだったのかが分かった。そりゃあ何年も連絡のない弟がいきなり帰ってきたら兄としては怒るだろうなあ。  

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