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第一章 第14話 疑わしきは-2

「ねえアキトくん、今のは治癒魔法? 君って本当にすごいね」ラドゥの顔が輝いている。 「俺もこんなに瞬時に治す治療師は初めて見た。ぜひ専属で俺のところに来てくれないか?」 「はあ? ユリウス兄様っ、何をよこからかっさらおうとしてるんですか! 私が治してもらったんですよ! 私の専属にきてくれないか?」  この世界には医者がいない。病気やけがは薬草か治癒魔法で治すのだそうだ。これって極めて行けばこのままこの世界で治療師として暮らしていけるのかな? 僕も人の役に立てるのだとしたら。なんだか嬉しい。 「兄貴らっ! ほんとに懲りないな! アキトは俺と一緒に旅に出るんだってば! 」 「はははっ。悪い悪い。からかいすぎたかな」 「もぉっ。なんだよ! ラドゥ兄貴も元気になったし。王位継承争いなんてなかったんだな?」  エドガーが笑顔で言うとオスマンとユリウスが固まってしまった。これは絶対何かある。 「本当のことを聞かせて頂けませんか?」たまらず僕は口出ししてしまった。  オスマンが何か言いたげだ。何か知っているのか? 口を真一文字に結んだまま手を握りしめている。 「兄貴達が言いづらいならオスマンが聞かせてくれ。話せよ」エドガーが声をかけた。 「実は……」 オスマンが口を開くと 「やめろ! エドに心配かけるな!」ラドゥが止めに入った。 「なんだよ? 俺に隠し事なんかしてくれるなよ。王宮に来た時点で俺にもここで起きてる事を知る権利はあるだろう?」 「わかった……」  オスマンの話に寄ると、王の呪いが解ける目処がたたないなら早、めに世代交代させようという動きが出だしたらしい。今はユリウスとラドゥが、代理で公務を分担している。そこへ時期国王は、ラドゥの方が適任だという声が出てきた。その時期と、ラドゥが体調を崩し始めた時期が重なるというのだ。 「ユリウス様一派はラドゥ様が邪魔なのでは?」  オスマンの言葉にコーネリアスが食いついた。 「それはこちらの言い草だ。お前を含めたラドゥ様派こそ、ユリウス様が邪魔なのでは?」 「お前らっ滅多なことはいうなよ。俺の兄貴達がそんな非道なことをすると思ってるのか?」 「エドガー。ありがとう。だが現実にラドゥは毒を盛られた可能性が高い」 「兄上っ。それは内密にとお願いしたではないですか!」 「いや、エドガーにはきちんと言っておきたい。断じて俺ではない。ないが、俺達の知らぬところで陰謀が企てられてるかもわからぬ」 「どういうこと? 派閥争いなのか? 本人達が望んでないのにか?」 「おそらくはそうだ。やはり父上が公務におられぬのが、災いとなっているのだよ」   「俺達としてはエドガー。お前にもここに残って欲しいのだ。三人でこの国を守って行きたいんだ」 「いや、やはり親父の身体を治してしまえばすむことだろう? だから俺が旅に出て……」 「治してももう歳だぜ。親父が倒れない保証はないんだ」  ユリウスが辛そうだ。そうだ確か人間族の寿命は100~120歳だったはず。王様って何歳くらいなのだろう。 「そんなこと言うなよ! 兄貴はそんな弱気を吐く奴じゃなかったはずじゃねえか」  このままじゃだめだ。話が平行線になってしまう。やっと戻ってきたエドガーを離したがらないお兄さんたちの気持ちもわかる。だけどエドガーのいう事もわかる。だって僕はそのためにここまで一緒についてきたのだから。  でもなんだかみんな疑心暗鬼にかかってるみたいだ。ちょっと王宮の事も調べてみたい。 「エドガー。とりあえずは落ち着こうよ。王様の容態も見てみたいし、これからどうするかはまず王様に会ってから決めてみたらどうだい?」  僕の提案にみんなが賛成した。 「そうだな。そうだ、まずは父上に会ってもらおう」 「あぁ、そうだ。久しぶりだし話もしたいだろう」  んん? 父親に合わせるって選択肢は今気づいたって感じじゃないか? 普通ならすぐに考えるだろう。さっきの発言もだがなんだかマイナスの感情に皆引きずられてる気がする。なんだろ? この違和感。集団催眠みたいな?   「とりあえず今日はもう日が暮れます。明日明るい時間から王に謁見の時間をとってもらいましょう」  コーネリアスが明日の予定をユリウスと相談しだした。 「エド。君たち今夜は部屋からあまり出ないようにね」  ラドゥが念を押すように言ってきた。 「え? なにかあるのですか? 」僕が不安げに尋ねると 「だって今夜はハロウィンナイトだからさ」    

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