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第一章 第18話 嵐の前の静けさ-2
謁見の間に向かう途中、廊下や壁にあるリリーフに同じデザインが使われていることに気づいた。昨日はよほど緊張していたのだろう。見落としていたのだ。
「凄い。昨日は白い壁だと思ってたのに。ドラゴンなんだね?」
「おう。親父がドラゴン騎士団だって前に言ったろ? この城は別名ドラゴンキャッスルって呼ばれてるんだ。ところどころ竜をかたどったレリーフが隠し彫りされてるんだ」
「へえ。凝ってるんですね」
クロードが柱に手を当てていた。光の加減で竜が見える。台座はしっかりと形のわかる彫りだが、そこから延びる柱には隠し彫りがされていて光があたると竜の身体が影として現れる。下から上へと竜の身体が伸びている彫りだった。
―――――あれ? これって……。
僕たちは扉の前で一呼吸し、合図とともに中に入った。
宰相であるコーネリアスに招かれるように、彼の後に続いて入場した。一瞬水を打ったように、シンっと広間は静まり返った。
謁見の間と言われる広間には、多くの重臣と、その配下と思われる人物がいた。
今日は、第一皇太子のユリウスは、台座に向かって右手に。第二皇太子のラドゥは、左手に立っている。
おそらくはその方向に従って、取り巻き達は配置してるのだろう。
「第三皇太子エドガー様のご帰還でございます! 」
コーネリアスの声が広間に響くとワっと歓声と拍手が広がった。
「おかえりなさいませ」
「よくぞご無事で」などなどの声があちこちで聞こえる。本心なのかどうかは別として。
「エドガー・ヴラド・ポーツラフ。ただいま帰還いたしました。父上様。兄上様。皆様方にはご心配をおかけし恐縮しております。謹んでご挨拶させていただきます」
一歩後ろに下がっていた僕たちもマネして広間の方々に挨拶をする。
「僕は内村アキトです」
「私はクロードです」
なんだか僕らがあいさつをすると同時にざわざわと周辺がどよめいた。なんだ一体?
「よくぞ戻った。さあ、父上に挨拶をするのだ」
「エドガー。こちらに。」
周辺の声を一掃するようにユリウスとラドゥがエドガーを台座に上がるように勧める。
台座の奥に王の椅子が置かれており、その前には長い薄い布がカーテンのように垂れ下がっていた。
足元まで垂れ下がった布のせいで王の姿はぼんやりと輪郭しか見えていない。
「エドガーか? そのまま中に入れ」
低いバリトンの声が聞こえた。なんだかとても懐かしい声だ。以前聞いたことがあるような? エドガーがその中にはいりしばらくして僕たちに声がかかった。
「さあ、アキト。クロードもこちらに来るように。父上に挨拶をしていただく」
エドガーったらいつもと違ってちゃんと敬語を使えてるじゃん。
クロードと一緒にカーテンの中へと入っていくとそこは思ったより広い空間だった。
王座には褐色の肌の黄金の長髪の美丈夫がいた。ユリウスが年をとったらこんな感じなんだろうなあ。
ラフなガウンを羽織っただけの格好だったが威厳が感じられる。ただその右足は石膏でかたどられたように真っ白に石と化していた。この姿を他に見られない様にするためにカーテンが下ろされていたのだろう。
「ドラクル・ヴラド・ポーツラフだ」
「はじめまして。僕は内村アキトと言います」
「私めはクロード・レオ・パルドスと申します」
「レオ・パルドス? 久しぶりだなその名を聞くのは……よく戻った」
「はい。無事に戻りました」
「そうか。多くは聞くまい。それより今は、息子の心を射止めた者の顔がみたい。さあ近くまで参れ」
「は……はい! では僕も王様の足の様子を診させていただいてもいいですか?」
「あぁ、よいぞ。触ってみるか? 」
僕はためらいがちに近づくと一礼し、右足に手を這わせた。王様がピクリと身体を動かした。
「不思議だ。石になった足は、今まで誰が触っても感じる事はなかったのに」
「今はどうですか? 」
訪ねながら僕はふくらはぎから太腿、足の付け根まで手を這わせてみた。触った感じは彫像のようだ。だが内部はまだ、血が通ってる部分は残ってるみたいだ。完全に石化はしていない。
顔をあげると王様と目が合う。スカイブルーってこういう色を言うんだろうな。
綺麗な青い瞳が熱く僕を見ている。
「美しい。綺麗な黒い瞳だ。それに懐かしい。……以前にお前に会ったことがある気がする」
「……ええ。僕も。とても昔に……お会いしたような」
王様が手を伸ばして僕の手を握った。胸元まで引き寄せられる。
「……お前の本当の名前は? 」
「僕の本当の名前? 僕は……」
「……マ……リ……ア? 」
「っ!!!! 」
僕の頭の奥で何かがはじけた! この声でマリアと呼ばれたことがある!
それはいつ? 僕はそのとき……なんという名前だった?
『【くちづけしなければ】』
誰と? 誰が? なんのために?
「アキト!」
「親父っ! てめえ!」
クロードが僕を、エドガーが王様を抑え込んで引き離した。
「ったく! いくらアキトが魅力的だからって息子の相手を横取りは許せねえ」
エドガーが憤慨してる横で僕はクロードに濃厚なキスを受けていた。
「ぷはっ……はぁ」急な激しい口づけで息が整わない。
「アキト? 戻ってこれましたか? 意識を飛ばしてましたっ」
「……エドガーか? あぁ。すまない。つい懐かしくって」
「何とち狂ったこと言ってやがるっ! 親父しっかりしろよ! アキトは綺麗すぎる。無意識に親父に魅了を使ったかもしれねえ。だがな。俺はアキトが魔女になる前から好きだったんだ。俺はこいつとパートナー契約を結ぶからなっ」
クロードの尻尾が僕の腰に絡みついている。心配かけてしまったようだ。
「そうか。彼は魔女なのか。では皆に狙われるだろう。早く伴侶契約を結んでやりなさい」
「そうなんだ。アキトは美人過ぎるんだ」
「いやそれだけではない。魔女と交われば魔力が増大されるので狙われるのだよ」
「なんだってぇ?」
「エドガー。お前魔女について知識がなさすぎるぞ。王族ならだれでも知ってることだが」
王様。今の爆弾発言って僕も初耳なんですけど。じゃあやっぱり昨日狙われたのは……。
「エドガー様、お前、アキトがココに来ることをどれだけ広めたんでしょうか?」
クロードの目が座ってる。敬語が変になってるよ。どうした?
「うっ。フォキシーのやろうに出来るだけ広めろと言っちまった」
「魔女だと言ったんだな?」
「そうだ。そのほうが俺と一緒に居れると思ったんだ」
理解したよ。要するに希少価値の高い魔女が突然現れてエッチしたら魔力が増大するって?
そりゃあ悪い事企んでる者には良いカモだよな。
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