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第一章 第19話 熱い想い-1
王と謁見を終えると家臣達に囲まれた。今日のところは顔合わせというところか。皆エドガーに声をかけようと集まってきたようだ。心配し帰還を単純に喜ぶ者や、それとなく兄弟のどちらに着くのか探りをいれてくる者もいる。僕は顔と名前を覚えるのに必死だ。
「アキト様は魔女の血統と伺いました。得意とする魔法が何かございますか?」
僕に声をかけてきたのはユリウス派にいたアランという男だ。屈強そうだが物腰がやわらかく僕にも普通に話しかけてくれる。
「そうですね。治癒魔法が使えます」
「治癒ですか? 魔女なら闇魔法かと思いましたが?」
僕の答えに声をかけてきたのはラドゥ派のドリスタンという男。小太りでじゃらじゃらと装飾品や指輪をつけている。ニヤニヤ笑いながら僕ににじり寄ってきた。
「まだ僕は魔法を使い慣れてなくてよくわからないのです」
「ほぉ?それはまた……」
ドリスタンが更に僕に質問しようとするのを察したクロードが代わりに答えてくれた。
「アキト様は、今後他の呪文も取得予定です。魔法分野は私がお答えしましょう」
「アキトは代替わりしたところなんだ。あまり虐めないでやってくれ」
エドガーも取巻き達をしりぞけ、僕の元ににやってきてくれた。
「二人ともありがとう」と礼を言って微笑むと周りからほうっと声が聞こえた。ん? 何皆どうしてこっちを見てるの?
「おお~。美しいっ! 」
「魔女さま、今度お食事でも」
「ぜひ私めの伴侶候補に!」
「こらっお前ら! アキトは俺の婚約者だ!」エドガーが叫んだ。
「な、エドガー。何を急に。恥ずかしいよ」
僕を守るためだとわかってるけど。そんな大勢の前で言わないで。赤面するよ。
「では、今日はこの辺で。エドガー様もアキト様も旅の疲れがまだ取れてないようですので、失礼いたします。皆さまありがとうございました。またお会いしましょう」
クロードが僕らの手を引き広間から足早に連れ出した。家臣たちはぽかんとしたまま見送っている。
「ふははは。クロードやるなあ」
「いいの? 抜け出しちゃって」
「ある程度の顔と名前の判別が出来ましたので、これ以上は時間の無駄です」
「そうだな。あいつら、アキトに興味を持ち始めやがったしな」
「ええ。無防備なアキトに近寄ろうとするなんて」
「何か魂胆があったのかもしれねえしな」
そうか、僕を通じてエドガーに取り入ろうとする輩もいるのかもしれない。こういう集まりやしきたりとかがわからない僕を利用してエドガーの名前を貶めようとする者もいるのだろうか。早いことあの場を立ち去る事が出来て良かった。
「クロード連れ出してくれてありがとう」
「いえ……その……私はアキトに伝えなければならない事があるのです」
僕らは一度エドガーの部屋に戻ってきた。というより、もうこの部屋が僕らの部屋のようになってしまった。一応奥の客間を与えられてはいるがこの部屋にはリビングがあるため集まりやすいのだ。
「伝えなければいけない事って。もしかしてパートナー契約の事?」
「……はい」
クロードはエドガーをじっと見た。
「まさか出て行けなんて言わねえよな! 俺の部屋なんだぜ。それに俺にも関係あるんだろ?」
「エドガーお願い。少しだけリビングに二人にしてくれる?」
「……仕方がねえな。少しの間だけ俺は寝室の方に行ってるよ」
「エドガーはアキトの言う事には素直ですね」
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