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第一章 第20話 城の秘密-2

 ぐらりと景色がゆがんだと思ったら見たこともない部屋にいた。否、部屋というよりもここは。 「ここって宝物庫じゃないのか? 」  目の前には金貨や金塊が山積みにあり、棚には見たことのない魔道具らしきものが陳列してあり、剣や王冠もある。いかにも触るとヤバいぞというような箱には厳重に鍵がしてある。  こんな場所にきたらヤバいんじゃないのか。  後ずさりしたときに宝箱のひとつにぶつかった。  ガシャン! と音が鳴る。 「……誰かいるのか?」 「どこだ?出てこい! 」  ど……どうしよう!僕の他に誰かいただんだ! それも複数? 逃げなきゃっ。でもどこに? 宝物庫には窓がない。出入口がどこなのかもわからなかった。 「灯りがないからよく見えないや」  手探りで進んでいくと急に明るくなった。あれ? 電気がついたのかな? いや違う、この世界には電気がない。あるのは魔法……。 「貴方でしたか? 」  背後から急に声がして慌てて振り返るとそこにはオスマンがいた。  これって予知夢でみたやつだ! しまった! ここに繋がるなんて。 「こんなに早く謁見が終わるなんて予定外ですね」  オスマンは少し焦った様子で僕の手を引っ張って奥へと連れて行く。  僕はバカだ。なんで夢の話をエドガーとクロードにしておかなかったのだろう。  今日はラドゥの傍にオスマンはいなかった。なのに僕は重臣の顔を覚えることに集中してそのことに重視してなかった。予知夢を見てたというのに。僕の周りにはいつも力の強いエドガーとクロードがいて守られていた。だから自分で身を守るという概念がなかったのだ。 「は、離せっ!! 」 「しっ。静かに。奴らにみつかります」  オスマンが小声で話しかけてきた。片手で口をふさがれ後ろから抱き込まれる様な格好になった。  僕らはちょうど、大人二人がギリギリ入れるスペースに潜り込んだ。L字の棚の背面ですぐ隣の棚との間だ。ううっ。こいつ思ったよりも良い身体つきじゃないか。僕なんかよりも筋肉がついている。ふいにオスマンの息が耳にかかる。 「どうやってここに潜り込んだのですか? 貴方は何をどこまでご存じなのですか?」   耳元で囁くように問われ僕の心臓はときめいた。なんなんだこの身体! ドキドキする! 「おいっ! そちらにはいないのか! 」 「いないようです。ただ単に何かが落ちただけでは?」 「どういうものかもわからないのに『魔女のハート』を探せなんて」 「あぁ。まったくだ。お貴族様は何を言い出すか分かんねえよなあ」 「お前たち! まだ見つからないのか! そろそろ見張りが戻ってくるぞ!」 「ドリスタン様もう戻りましょう」 「コラッ! 大きな声でわしの名を呼ぶな! 王に黙ってきてることがばれたらどうする」  こいつは謁見の間で会ったやつだ。やけにじゃらじゃら宝飾品をつけていた。 「仕方がない。あの魔女は代替わりしたところでそれほど魔法が使えないらしい。心配して損したわ。なあに魔女は淫乱だからすぐにわしにもすり寄ってくるだろうさ」  はあ?! 何を言ってやがる! そうか僕は周りからこういう感じにみられていたのか?!もっと自分を鍛えないと!  ギィイッ! ガシャン!!と何かが閉まる音がして人声がしなくなった。 「行ったか? 」  オスマンがやっとふさいでいた手を離してくれた。 「はあっ。誰があんなやつと! 僕にだって選ぶ権利がある! 」  開口一番に僕はドリスタンの言葉に対して反論した。 「ぷっ。くくくっ。確かに。」  ……オスマンって笑うんだ。それも可愛い。見た目よりも実年齢は若いのかもしれない。 「オスマンって笑うと可愛いんだね」 「っ! それは誘ってるのですか? 」 「そんな! あいつのいう事、真に受けないでよね! 僕は淫乱じゃないから。多分……」 「多分なのですか? アキト様は以外と面白い方なのですね」 「ゔっ。ほっといてくれ。それより何でここにいるのか教えてよ」 「私はここに入り込もうとする輩を見つけたので後をつけて紛れ込んだんです」  ん~。これは本当なのか? 信じてもいいのかがまだわからない。僕の事については隠し事はしないほうがいいだろう。   「僕は気づいたらここに転送されてたんだ」 「転送? それを信じろというのですか? 」 「そうだよ。信じても信じなくてもいいよ。でも本当の事だ」    オスマンのエメラルドの瞳がじっとこちらを見つめてくる。真意を測りかねてると言ったところだろうか? 「ところで貴方はここに何をしに来たのですか? 転送されたというにはここで何かをするつもりなのですか?」 「…ねえオスマン、もし君ならこの中のどこに魔女のハートとやらがあると思う?」 「やはり探しに来たのはそれですか? 」  オスマンのエメラルドの瞳がキラリと光る。綺麗だな。でも見透かされるような瞳だ。 「魔女のハートが何かしってるんだね? 」  オスマンの眉が片方上がった。僕でさえそれが何か確信が持てないのに。 「ええ。竜の秘宝の封印を解くものです」  そうか! この王宮には僕らが探してるモノが何かを知っている者がいるんだ。 「だったらオスマン、勇者と賢者のも知ってるんでしょ? 」 「なんですか、私を試しているのですか? はぁ、趣味が悪いですね。勇者のは力の剣。賢者のは智慧の石です。貴方は魔女なのだから当然知っているのでしょ?」  こんなにあっさり教えてもらえるなんて。僕が魔女だから何でも知っていると思われているのかもしれない。   「ま、まあね。じゃあ、そのことを知ってるのはオスマン以外は誰がいるの?」 「王の側近や重臣たちは存じてるものが多いかと。古い言い伝えですので」 「言い伝えなの? エドガーは知らなかったよ」 「エドガー様は幼くして剣の訓練に励み、ダンジョン巡りなどされてたのであまり勉学は興味がなかったようですね。私は祖父によく聞かされてました」       「ねえ。その3つとも全部ここにあるんじゃない? 」 「それは答えられません。私も存じませんから」 「でも魔女のハートはあるんだ」 「ご存じのように世界を元に戻した三人の冒険者は秘宝を隠すために各々の一番大事なものを交換し合うのですよ。その中で魔女は勇者に自分のハートを渡したのです。つまり勇者とはこの国の王の先祖なのです」 「だからここに隠されてるのだと? 」 「おそらくは」 「オスマン。宝物庫の中で一番大事な品はどこに置かれてるの?」 「一番奥の部屋ではないでしょうか? 」 「一緒に行ってくれる? 僕灯りがつけれないんだ」 「……いいでしょう」  オスマンは呪文を唱えると丸い発光体が浮かび上がり僕らの周辺を飛び回っている。 「わあ。蛍みたい」  簡単な呪文ですよと教えてもらい、唱えると僕の周りにも発光体が回りだした。 「今のですぐに使えるとは、なかなか筋がいいですね」  

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