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第一章 第29話 動き出した闇
「くそっ!思ったよりも速い展開になってしまった」
(こんなことならすぐにでも襲ってしまえばよかった。)
ジャラジャラと装飾品の音を立てて小太りの男が一人王宮の中を足早に進んでいた。
ラドゥ派の側近の一人。貴族のドリスタンだ。
(くそっ。内乱に便乗し王位を我が物にするはずが、こんなことになるとは!)
第三皇太子のエドガーが戻ってからというもの、城下は活気があふれお祭りムードだ。それも魔女であるアキトを伴侶に娶ったからだった。
まさか1か月たらずで伴侶の儀式を行うとは思っていなかったのだ。
(淫乱魔女め!王まで誘惑したのか! )
ドリスタンはアキトと身体を交わしたから魔力が増大し王が歩けるようになったと思い込んでいた。
(魔女が本当に癒しの力なぞ持っておるはずがない!)
「だが、魔女の力は是非とも欲しい。こうなったら、わし以外のものとは交われないよう薬づけの身体にしてやろうではないか。くくく‥‥‥」
そのころオスマンは厨房に居た。誰かが毒を盛らないか監視をするためだ。
(二度とラドゥ様に毒は盛らせたりしない!)
「オスマン! ここに居たのか! 探したぞ!!」
どかどかと厨房に入ってきたドリスタンがオスマンの腕を掴んだ。
触られた途端に嫌悪感が走り、オスマンは思わず眉間にしわを寄せる。
「なんじゃその顔は! わしに逆らうつもりじゃなかろうな?」
「いいえ。とんでもありません」
「ふん! まぁよいわ。それよりもお前のその力をまたわしに貸すのじゃ」
ぐへへへと卑しく笑う横でオスマンはため息をついた。
「では、場所を変えましょう。詳しくお聞かせください」
「アキトを誘惑しわしの虜にするのじゃ!どうだ? お前なら簡単だろう?」
「‥‥‥はぁ?‥‥‥」
こいつは何を勘違いしているのだろう? アキトが本気でこの男に惚れるとでも思っているのだろうか?
オスマンは呆れてものも言えなかった。
「まさかお前、わしへの恩を忘れたわけではあるまいな? お前の祖父や兄弟の面倒を見ているのはわしの財力だという事を。お前のような貧乏なものでもこのわしの尽力によってココに居られるという事をな」
「忘れてはおりません。貴方様のおかげで私はココにこうしておられるのですから」
オスマンの祖父は病弱で高額な治癒代がかかる。そのほとんどをドリスタンが肩代わりしていた。
元々オスマンには何事にも素早く頭を働かせて物事に対応する能力が高かった。その才覚を第二皇太子のラドゥに見初められ彼の側で働くこととなったのだ。ドリスタンはそれに付け込んでオスマンに紹介させ自分もラドゥの側近へと上り詰めた。
ラドゥは美しく聡明で純粋な人間であった。オスマンは彼に惹かれているがドリスタンの悪事に加担している自分は汚れていると思い悩んでいる。そこへまた無理難題を持ち掛けてきたのだ。
「次の満月の晩、わしは王宮に泊まる事にしよう。その時にアキトをベットに誘い出せ」
「無茶です」
「な! 何を言う!魔女など淫乱な生き物じゃ。何人でも男を咥え込むわ」
「魔女の魔力に目がくらんだのですか?」
やはりアキトはこの国に災害を持たらす元凶なのだろうか?
「ドリスタン様、アキトは今や王族なのです。わたしなどが手を出せる相手では」
「お前のその目を使えばいいであろう? 人を操れるその目をな」
「っ!‥‥‥何度も申してる通り、この力はわたしの生命力を使います」
「だから、少しの間で良いと申しておるではないか。わしが挿入するまでのな」
ぐふふふとドリスタンは笑った。
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