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第二章 29話 反乱は失敗に終わる

 魔物を捕縛し、王宮の中が落ち着いた頃にホワイトがやってきた。 「はーっはっはっは。この僕が来たからにはもう大丈夫さ!!」 「おう。ホワイト、わざわざ飛んできてくれたんだな?ありがとうよ!」  ホワイトはコバルトと共にアンバーの指示で近隣の魔物の偵察に行ってもらっていた。  案じたように魔物の数が一時的に増えたようで収束させるのに手間取っていたらしい。  クロードが言うには王都での負のパワーの連鎖に反応したのではないかってことだった。  近隣の森や村に避難している民たちの様子も調べて来てもらった。 「やはり皆、精神的なダメージが大きいようだ。当面の食糧や足りない物資などは明日以降、順次配る予定にしている。民たちには出来るだけ早く王都に戻れるように手を尽くすと約束した。それでよいな?!」 「ああ。助かったぜ!物資手配までしてくれるなんてさすがホワイトだな!」 「そうであろう、そうであろう。この僕が動くのだ!短時間に完結に仕事をしなくては!」  ホワイトはナルシストで自画自賛が凄いが、その分きっちり仕事をする。  今回エドガーは身内が絡んだせいもあるが、自分の周りの事で手いっぱいだった。  民については後手後手に回りそうだった。それをホワイトが全部片づけてくれたのだ。 「本当に。お前らがいてくれて俺はどんなに心強いか。俺はまだまだ未熟だ!」  エドガーは腰を90度に折り頭を下げた。 「これからもどうぞよろしく頼む!!こんな俺が団長ですまん!!」 「はーはっはっは!うむ!正直で良い!なに、経験を積めばいいだけの事!エドガー団長!貴殿は本当に心根がまっすぐで気持ちのいい男だのお!」  肩にかかった白髪を手で後ろに払うと風がたなびき、ホワイトの美麗が強調される。  優雅で洗練された容姿はどことなくラドゥを思い出させた。 「ところで団長。我が伴侶のアンバーはどこに行ったのかわかるか?」 「アンバーならドラゴン城に戻ったぜ。向こうを空っぽにしておくことは出来ねえって」 「ぐぬぬぬぬっ!この僕をこれだけ働かせといてねぎらいのキスひとつもせず戻るとは!今夜は寝かせないぞっ!」 「ホワイトが?え?アンバーはまさか抱かれる方なの……か?」  アンバーは岩のような巨漢だ。しかしその性格は温厚で気は優しくて力持ちといった容姿で。  それに引き換えホワイトは引き締まった身体で細身に見える。でも竜になれば違うのか?……。 「ん?何か言ったかっっ?」 「な、なんでもないっ。えっと、こっコバルトはどうしたんだ?」 「コバルトは……先にドラゴン城に帰らしたのだ。僕らはあちらを主体にせねばならない……いや、やはり団長には言っておこう!コバルトが代替わりをしたのは知っているな?」 「あぁ。聞いた。予定よりも早く代替わりになったって」 「その原因になったのが今回捕まった首謀者だ!だからコバルトには会わせたくなかったのだ」 「え?ラドゥ兄貴が?」 「詳しいことはドラクルに聞くといい」  アキトとクロードはケガ人の治癒に回っていた。  ラドゥの闇を祓った後、コーネリアスの容態が落ち着いたそうだ。  今はユリウスが付き添っている。呼吸も脈も安定しており魔物化する様子もない。  やはり闇のチカラはラドゥの心の中に巣食った呪いだったようだ。  ラドゥはまだ目覚めない。手にはユリウスにはめられていた魔力封じの鎖がされている。  その隣には王の部屋の前で倒れていたオスマンも同じように寝かされていた。  オスマンのダメージはひどく、目覚めたとしてももう魔力は戻らない可能性が高い。 「ラドゥさんのためにオスマンは命をかけたんだね」 「オスマンは確かドリスタンにそそのかされてアキトを拉致した時にラドゥ様と【いついかなる時も生涯の忠誠を誓う契約】をしてましたよね。二度とアキトに手を出さない様に」 「うん。でもオスマンは契約だけでなくラドゥさんを慕っていたんだと思うよ」 「そうかもしれませんね」  体力がついたらオスマンはラドゥと共に王都から離れた場所に幽閉される。  ラドゥは対外的には病気療養という名目で王政からは外されるという。 「時間が解決してくれると願いたいね」 「ええ。そうですね。ですが、獣人を魔物にしてしまった罪は消せません。彼らにも家族はいたでしょうし、闇魔法は解けたようですが獣人に戻せるかはわかりません」 「家族の気持ちを思うと切ないね」 「わたしは短期間でしたが先王の宰相をしていた時期があります。享楽的な方で債務が滞ってしまったので、その立て直しをしたのですが、今思えば当時からご自分が王の器でないと感じられていたのかもしれません」  クロードは魔物と獣人のクォーターだ。そのため寿命が長い。 「王の器でないとわかっていたが、いざ王の座を奪われると執着がでたってことなのかな?」 「さあわたしにはわかりません」 「そうだね。僕にもわからないよ」  今だって自分が王宮にいるのが不思議に思う。  エドガーと出会わなければ一生かかわりがなかったかもしれない。

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