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-律人-ビルマの5日間⑥
律人が他の兵たちとともに、何事かと宿舎の外に出ると、駐屯地の敷地内にある広場に何人かの兵が集まり、一人の男を囲んでいた。
「隊長!どうしたのですか」
律人の近くにいた兵が、事態を把握した様子で見守っていた小部隊の隊長に訊ねると、部隊長はこう説明した。
「ここ数日、食糧庫の在庫が合わないことが増えてな。
離れたところから一晩中見張りを付けさせたところ、こうして食糧を盗んでいた不届き者を見つけたというわけだ」
部隊長が顎でクイと男の方を指した。
「許してください……!どうか許してください……!!」
兵に囲まれた男が、地面に額を擦り付けながら泣いている。
「腹が減ってどうしようもなく——」
「それはここにいる皆が同じ立場であろうが!」
部隊長は男の脇腹に蹴りを入れた。
「うぐっ……!」
「お前のせいで、お前以外の何人もの兵が飢えようものなら、その損失をどう埋め合わせるつもりだ。
お前は自分一人の身勝手さで、他の者達の命を脅かしたのだ!」
「申し訳ございません……」
「——気持ちはわかるよな」
大勢の兵が成り行きを見守る中、律人の近くにいた兵たちがぼそっと会話をした。
「俺も腹が減りすぎて、とうとう幻覚を見るようになった」
「いつ敵襲があるともわからない中じゃ、食える時に食っておきたいしな。
だが俺たちの食べる分を盗んだのはいただけねえよ」
「だな」
律人も、昨日自分の分を他の兵に譲って点呼を代わってもらっていたため、いつも以上に飢餓を感じていたため
さすがに人の分を盗んでまでとは考えていなかったが、男の気持ちは痛いほど理解できた。
「隊の風気を乱す者は生かしてはおけない。
部隊長の権限をもって、この者には——切腹を命じる」
周囲がざわめく。
食糧を盗んで切腹になるというのは——罪を犯して最悪切腹になることはあると理解しつつも——衝撃的な命令だった。
律人は、地面に頭をつけていた男の顔から血の気が引いていくのを見て、あまりに不憫に感じた。
この男とはあまり関わり合いはない。
自分の立場を悪くしてまで、異議申し立てをする義理はない。
だが——仲間が腹を切るのを黙って見届けるのも夢見が悪い。
どうしたものか……
律人がそんなことを頭の中で考えていた時。
「お待ちください」
遠くの方から、小走りで駆けてくる一人の兵の姿があった。
「!——秋庭……」
律人は目を見開き、思わず呟いた。
やって来たのは弓弦だった。
ここ二日、夜に森の中で顔を合わせた相手と早朝の駐屯地で再会するのはなんだか奇妙に思えたが、
弓弦の方は大勢の兵の中に混じっている律人の姿に気づく様子もなく、部隊長の元まで走り寄った。
「切腹というのはどうか思い留まっていただけませんか」
「うん?お前は——」
「戸山学校より派遣されて参りました、軍楽隊所属の秋庭弓弦です」
「軍楽隊?他所から来たお前が、何の所以があって発言しているのだ」
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