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-律人-ビルマの5日間⑭

「弓弦、話がある」 ——五日目の晩、弓弦がバイオリンを弾き終えた後、律人は間髪を容れず告げた。 「一日、考えたんだ。 考えて、自分なりに出した結論を弓弦に話してもいいか」 「……もちろん。どんな話でしょう」 弓弦はバイオリンをケースの中に寝かせ、立ち上がって律人と向き合った。 「単刀直入に言う。俺は弓弦が好きだ」 律人は真っ直ぐに弓弦を見つめて言った。 「まだ出会ってから五日目で、こんな気持ちになっていることに自分でも驚いている。 けれど、弓弦とはもう今夜しか居られないんだろ。 このまま何も言わずに見送ることも考えたけれど、それでは俺は心のうちを見せたことにはならない。 だから俺も正直な気持ちを、率直に伝えたいと思った。 ——話というのは、それだけだ」 長い沈黙が流れる。 言葉に困っているのかもしれない。 俺が考え無しに考えを述べたせいで、弓弦を困らせてしまったのは申し訳ないと思っている。 「……それだけで、終わり?」 暫くして、弓弦から言葉が返ってきた。 「僕に気持ちを打ち明けてくれて——それで終わり?」 「え?」 「……僕の気持ちは聞かなくていいんですか?」 律人は少し考えた後、こう告げた。 「知ったとて——だろ。 弓弦がどんな風に思ってくれるにせよ、俺と弓弦が生きて会って話せるのは、もう僅かなんだから」 すると弓弦は、律人のもとへ歩み寄った。 そして律人の胸元へしなだれかかると、消え入りそうな声で言った。 「僅かな時間でも良い。 一生の中の、ほんの一瞬だけでも—— 好きな人と想いが通じ合うのは幸せなこと。 そうでしょう……?」 弓弦は律人の背中に腕を回すと、そっと律人を見上げた。 「先がない相手に踏み込むのは怖いですか?」 「……」 「僕は怖くない。 ——母と姉を失った時に思ったんです。 これから先、何十年と一緒に生きていけるだろうと思っていた相手でも、明日にはもう生きていないこともあるのだと。 僕自身、明日死んでしまったっておかしくない。 ——この世に永遠などというものは無い。 いずれ必ず別れが訪れ、終わっていく定めならば…… 悔いなく生きられる方が、僕は良い」 弓弦は律人の瞳をじっと見つめると、 「僕も律人が好きです」 と告げた。

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