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-ガク-告別式での再会②

「弓弦……!」 前世での出来事を鮮明に思い出したガクは、そこが他所の告別式会場であることを忘れ、ふらふらと扉の先へ歩いて行った。 「!君——」 ガクに気付いたスタッフが慌てて制止しようとしたが、ガクは止まらなかった。 「弓弦……!弓弦だよな……!?」 ガクが呼び掛けると、青年はバイオリンを奏でる手を止めた。 「……?」 突然乱入してきた人物に名前を呼ばれ、青年は怪訝そうな表情を浮かべた。 「やっぱり——弓弦だ……! 顔も同じ……、バイオリンの音色だって全く一緒だった」 「……あの」 「ずっと弓弦に会いたかったんだ」 「——待って」 食い気味に近寄ってくるガクに、青年は困惑した様子で言った。 「僕が今何をしていたか分かりますか?」 「え——」 「亡くなった祖母に向けて、別れの音楽を演奏していたんです。 あなたは——それを邪魔した」 「……っ」 眉間に皺を寄せる青年の表情を見たガクは、ようやく気がついた。 『この人』は、前世の記憶がないのか……! 考えてみれば、俺だって今の今まで封印されていた記憶だ。 それが弓弦——この人の弾くアヴェ・マリアを聴いたことがトリガーになって、堰を切ったように一気に溢れて来て…… この人は、間違いなく弓弦だ。 顔も演奏も全く同じ。 そうでなくとも、俺の本能が強く呼びかけて来ている。 目の前に、ずっと会いたくて仕方のなかった相手がいると。 自分の死の瞬間まで恋焦がれ続けた相手だ、と。 でも、この人は——前世の記憶に封がされたままだ…… 「あなた、誰なんです?」 「っ……俺、は……ガク——いや、律人……? なんて説明したらいいか——」 ガクが言い淀んでいると、椅子に腰掛けていた一人の男性が歩み寄って来た。 「伊織。この人は伊織の知り合いか?」 「いいえ、父さん」 イオリと呼ばれた青年が即座に否定すると、彼が父と呼んだ人物がガクの方を向いて言った。 「お引き取り願いましょう」 「あの、でも俺——彼に大事な話が……」 「今はそのような時ではないと分からないかな?」 男性が冷酷な視線を向けると、ガクは怯みながらも言った。 「っ……じゃあ……式が終わるまで、外で待たせてください……!」 そう言って頭を深く下げると、スタッフに連れられ式場の扉の外へ出た。 廊下に出ると、ガクの父親が歩み寄って来た。 「楽!どこに居たんだ」

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