22 / 200
-ガク-告別式での再会②
「弓弦……!」
前世での出来事を鮮明に思い出したガクは、そこが他所の告別式会場であることを忘れ、ふらふらと扉の先へ歩いて行った。
「!君——」
ガクに気付いたスタッフが慌てて制止しようとしたが、ガクは止まらなかった。
「弓弦……!弓弦だよな……!?」
ガクが呼び掛けると、青年はバイオリンを奏でる手を止めた。
「……?」
突然乱入してきた人物に名前を呼ばれ、青年は怪訝そうな表情を浮かべた。
「やっぱり——弓弦だ……!
顔も同じ……、バイオリンの音色だって全く一緒だった」
「……あの」
「ずっと弓弦に会いたかったんだ」
「——待って」
食い気味に近寄ってくるガクに、青年は困惑した様子で言った。
「僕が今何をしていたか分かりますか?」
「え——」
「亡くなった祖母に向けて、別れの音楽を演奏していたんです。
あなたは——それを邪魔した」
「……っ」
眉間に皺を寄せる青年の表情を見たガクは、ようやく気がついた。
『この人』は、前世の記憶がないのか……!
考えてみれば、俺だって今の今まで封印されていた記憶だ。
それが弓弦——この人の弾くアヴェ・マリアを聴いたことがトリガーになって、堰を切ったように一気に溢れて来て……
この人は、間違いなく弓弦だ。
顔も演奏も全く同じ。
そうでなくとも、俺の本能が強く呼びかけて来ている。
目の前に、ずっと会いたくて仕方のなかった相手がいると。
自分の死の瞬間まで恋焦がれ続けた相手だ、と。
でも、この人は——前世の記憶に封がされたままだ……
「あなた、誰なんです?」
「っ……俺、は……ガク——いや、律人……?
なんて説明したらいいか——」
ガクが言い淀んでいると、椅子に腰掛けていた一人の男性が歩み寄って来た。
「伊織。この人は伊織の知り合いか?」
「いいえ、父さん」
イオリと呼ばれた青年が即座に否定すると、彼が父と呼んだ人物がガクの方を向いて言った。
「お引き取り願いましょう」
「あの、でも俺——彼に大事な話が……」
「今はそのような時ではないと分からないかな?」
男性が冷酷な視線を向けると、ガクは怯みながらも言った。
「っ……じゃあ……式が終わるまで、外で待たせてください……!」
そう言って頭を深く下げると、スタッフに連れられ式場の扉の外へ出た。
廊下に出ると、ガクの父親が歩み寄って来た。
「楽!どこに居たんだ」
ともだちにシェアしよう!

