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-ガク-告別式での再会③

「あ……」 「今さっき、参列してくださった方々を皆帰したところだ。 『楽くんと久しぶりに話したかった』と言ってくれた人達もいたのに——まったく」 「ごめん……」 「まあ、そんなことより、次は火葬場へ移動だ。控え室から荷物を取って来い」 父親の言葉でガクは我に返った。 そうだ。参列者の人たちを見送った後、近親者だけで火葬場に移動するんだった。 俺も大学に入って一人暮らしを始めるまでは、実家でじいちゃんと一緒に住んでいたから、当然近親者として数えられている。 ——でも…… 火葬場へ移動したら、弓弦とはもう会えないかもしれない。 ……じいちゃん、ごめん。 「……父さん。俺、大事な用があるのを思い出した」 「はあ?」 父親は呆れを通り越し、気の抜けたような声を出した。 「じいさんの火葬に立ち会うことより大事な用があると?」 「ごめん」 「で、その用というのは?」 「……言えない」 言っても信じてもらえないだろう。 「言えない用なら、許すわけにはいかないな」 「——じゃあ、言う。 見つけたんだ、運命の人を」 「……」 父親は呆れを通り越したような表情で口を開けた。 「この機会を逃したら、一生後悔すると思う」 「……こんな時に冗談か?」 「本気だよ。 ——そりゃ、じいちゃんのことは大好きだし、申し訳ない気持ちもあるよ。 でもじいちゃんもきっと、天国から俺の背中を押してくれるはずだよ」 父親は、ガクの言っている意味を一つも理解できないといった様子で首を傾げた。 「お前をそんな馬鹿に育てた覚えはないのだが」 「っ、俺は本気だよ!ふざけてない!」 「そもそも、なんだ運命って。 さっきまで姿が見えなくなっていた十数分の間に、どこかの誰かに一目惚れしたって言うのか?」 「一目惚れとか、そういうんじゃない。 だけどこれは運命だって——間違いなく探していた相手だって、音を聴いただけで分かったんだよ!!」 「おとぉ……?」 「だからぁ……!なんて説明すればいいかわからないけど、俺——」 二人が廊下で話し込んでいると、隣の告別式会場の扉が開いた。 ギィ……と重厚な軋み音が響き、二人はそちらに視線を向けた。 「おい、お前が叫ぶから隣にご迷惑をおかけしたんじゃないか」 父親は騒音を注意しに来たのだと思い、小声でガクを小突いたが、中から出てきたのはスタッフでもなければ、二人の話し声に対ししかめ面をした参列者でもなかった。 「!弓弦——」 扉から出てきたのは、バイオリンを弾いていたあの青年一人だけだった。 ガクは弾かれたように彼に駆け寄って行くと、青年は怪訝そうな表情のまま言った。 「トイレと嘘をついて抜けてきたから、手短かに話して。 あなたは僕の知り合いなんですか?」 「そう——そうだよ。 上手く言えないけど、その……」 「あと僕、『弓弦』じゃないです」 「え?」 「イオリ。僕の名前は伊織です。 ——名前も知らないのに、本当に知り合い?」 そうか。 考えてみれば、俺だって『春木律人』じゃない。 時代も家も全然違う人間として今は生まれ変わったんだ。 そりゃ、弓弦だって『秋庭弓弦』ではない人間として生まれ変わっていて当然だ。 「なんて言うか、手短かに説明すると、俺とゆづ——あなたは前世で知り合いだった」 「ぜん……?」 「1944年、今はもう名前が変わってしまった国……当時はビルマと呼ばれた場所で、俺はあなたと出会ったんだ」

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