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-ガク-告別式での再会④

青年——イオリは困惑を浮かべながらも、黙って耳を傾けた。 父親も、ガクの肩に手を乗せようかと迷ったものの、彼の話を聞くことにしたようだった。 「俺——前世の俺は春木律人という名で、ビルマ戦線に送り出されてきた一兵士だった。 飢餓と暑さと、明日死ぬかもしれない恐怖の中で戦っていた。 そんな地獄のような場所にやって来たのが、あなた——秋庭弓弦だった」 記憶の蓋が開いたのはつい先程のことであるというのに、 当時の出来事が鮮明に思い出されていたガクは、まるで最近のことを話しているかなような錯覚に陥る。 弓弦との出会い、そして別れ—— その時の感情が堰を切ったように溢れ出したガクは、自分でも気付かぬうちに涙を流していた。 「あなたは……っ、いや、弓弦は—— 傷心の俺のためにバイオリンを弾いてくれた。 バイオリンで、『アヴェ・マリア』を——あなたが一番好きだった曲を、俺のために……」 涙で視界が揺れる。 その先に、まっすぐな瞳をしたイオリが立っている。 あの時と同じように凛とした、そして儚さを漂わせる、綺麗な瞳—— 「……アヴェ・マリアは……」 するとイオリは、静かに口を開いた。 「僕の祖母が好きな曲だった。 だから祖母の棺の前で、最期に聴かせたんです。 ——あなたに邪魔をされてしまいましたけれど」 「それは……本当にごめん……」 ガクは誠心誠意謝った。 深く頭を下げていると、イオリは 「そこまでしないで」 と言い、ガクの頭を上げさせた。 「僕は前世なんてものは覚えてないし、あるとも思っていない。 アヴェ・マリアは僕の祖母が好きな曲であって、僕自身はこの曲に対しての強い思い入れはない」 「……そんな……」 「——けれどあなたは、あなたが前世で知り合った秋庭弓弦という人間の生まれ変わりだと、そう主張しているのですね」 イオリが確かめるように言うと、ガクはこくこくと頷いて見せた。 「間違いない。 あなたの弾くバイオリンの音を聴いて、直感したんだ。 ——だって俺、その音を聴いた瞬間に思い出したんだから」 「前世のことを?」 「うん。俺だって今まで前世の記憶なんて無かったし、そんなものがあると思ったこともなかった。 だけどあなたのバイオリンを聴いて——そしてあなたの顔を見て、 秋庭弓弦の生まれ変わりはあなた——イオリさんだって分かったんだ」 「……」 イオリが沈黙すると、先ほどからタイミングを見計らっていたガクの父親が、とうとう口を挟んだ。 「いや、どうも。うちの馬鹿息子がすみません」 「!——父さん」 「こいつがね、さっき『運命の人と出会った』なんておかしなことを言い出すものだから一体何のことかと思ったら…… 前世なんて、はは—— そんなスピリチュアルなものに興味がある息子じゃないはずなんですが、どうもご迷惑をおかけしました」 父親はイオリの手前、笑いながらガクを嗜めた。 「こんな訳の分からない話、会ったこともない人間に突然されたら、困惑してしまうのも当然です。 ——ガク。この方に謝って、さっさと火葬場へ行くぞ」 父親がガクの肩に手を乗せると、イオリが不意に口を開いた。 「……今、『運命』って言ったのは……?」 「え?」 ガクと父親が同時にそう声を出すと、イオリが尚も尋ねた。 「仮に前世が本当にあるとして、前世で知り合いだった人と再会するのは確かに凄いことかもしれない。 でも日本に住んでいたなら、知り合いは一人だけじゃない。 なんで僕と再会したことを『運命』とまで言ったんですか?」 ガクは、頬を赤らめた。 イオリに向かって、そして父親がいる目の前で、こんなことを言うのは気恥ずかしいと思った。 しかしここで茶化したり、ぼやかしてしまえば、真剣な気持ちは伝わらなくなる。 ガクは覚悟を決めて告げた。 「俺は弓弦——前世のあなたのことを愛してた……!」

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