25 / 200
-ガク-告別式での再会⑤
父親が目を丸める。
ガクはイオリだけを見つめて続けた。
「そう、俺は——春木律人は、前世のあなたのことが好きだったんだ……!
日本に帰ってからも、ずっと忘れられなくて、死ぬ時まであなたを思ってた……!
だから——人生をかけて愛した人と、時を超えて再会できたことは運命と言ったって過言じゃないと思う。
あなたは俺の運命の人だって、本気で思ってる!!」
二人の間に沈黙が流れる。
ガクは顔を真っ赤にしたまま。
イオリは表情を変えず、しかし真っ直ぐにガクを見つめたままだった。
そんな二人の沈黙を破ったのは、ぶっと噴き出した父親の声だった。
「はっはっは!!
ガク、お前……、そこまで凝った設定の作り話を即興で考えたのか?
お前はずっと国語が苦手な理系人間だったじゃないか。
いつのまにそんなファンタジーを想像できるようになっていたんだか」
「作り話じゃないよ、父さん……」
ガクはますます恥ずかしくなり、俯きながら言った。
「いやいや、どう聞いたって作り話だろうに!」
「なんで作り話だと決めつけるんだよ、こんなに真面目に話してるのに」
「そりゃあ、だって——」
父親はおかしそうに笑いながら言った。
「男が男を好きになるなんて——どう考えたって、そこから作り話じゃないか!!」
——その時だった。
イオリはガクの腕を掴み、つかつかと歩き出した。
突然のことにガクが驚くと、イオリは小さな声でぼそりと言った。
「話にならない」
「っあ——ごめん……」
「あなたじゃなくて、あなたの父親」
「へ?」
「ちょっと、二人だけで話そう」
イオリは、追いかけてこようとするガクの父親の方を振り返ると、じろりと睨みつけた。
付いてくるな、という意思をイオリが示すと、父親はぎくりと肩を揺らした。
自分の息子と同じくらいの、まだ成人したてくらいの青年相手だというのに、
蛇に睨まれた捕食対象のように父親はそこから動けなかった。
「——トイレにしちゃ長過ぎる、と言われそうだな。後が面倒だ」
会場の外の中庭まで歩いて来ると、イオリは一人ごちた。
「で——」
イオリは、何も言わずついて来たガクの手を離すと、向かい合って言った。
「僕に何を求めてるんです?」
「え?」
「前世で、僕とあなたは知り合いだった。
知り合いどころか、あなたは前世の僕をずっと好きだったそうですね。
で——その前世のことを何一つ覚えていない今の僕に、あなたは何を望んでいますか?」
「ええと……それは——」
何を望むだろう。
ずっと会いたかった人に会えた。
でも、その相手は自分のことを覚えていない。
そんな相手に、何かを求めることができるのだろうか。
「僕と恋人になりたいですか?」
ともだちにシェアしよう!

