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-ガク-告別式での再会⑥
ガクが黙っていると、イオリが突然切り出した。
「え……」
ガクは暫く、言葉の意味をうまく頭の中で処理できなかった。
「え……ええっ!?」
実に10秒近く経ってから、ようやく驚嘆したガク。
「俺と……あなたが恋人に!?」
「なりたいのか?——って聞いてるんです、こっちは」
「えーっと……!」
ガクは自分の感情を整理出来ず、そしてイオリの言葉の意図も理解できずに頭を抱えた。
ずっと弓弦に会いたかった。
——のは、俺じゃなく、『前世の俺』。
ついでに言うと、男しか好きになれなかったのも、『前世の俺』の話だ。
なんなら今の俺は産まれてからの20年、女の子しか好きになったことがない。
今付き合っている子はいないけれど、中高と何人か彼女が出来たことはある。
だけど今——前世の俺の記憶と感情を共有してしまった今ならば、わかる。
男しか好きになれなかった春木律人の生きにくさ。
今よりも同性愛に理解のなかった時代に、子孫を作るために妻を迎え、
自我を押し殺して夫婦の関係を築く努力をしたこと。
秋庭弓弦という人間と出会い、どうしようもなく惹かれてしまったこと。
そして弓弦を失い、日本に一人で戻った後も、弓弦を思い抜いて死んだこと——
あんなに強く永く、人を好きになった感情は、
『ガク』として生きてきた20年の中で経験したことが無い。
異性を好きになった経験、付き合った経験——
自分の経験してきた感情を遥かに上回るような、強い気持ち。
前世の俺が、今の俺を塗り替えてしまっている。
きっと『春木律人』は、来世で生まれ変わることができたら、絶対に『秋庭弓弦』と再会し、また関係を築いていきたいと切に願った。
どんなに時が流れても。
この気持ちを思い出せるようにと、来世の自分に託したんじゃないだろうか。
いや、託したのだと理解している。
だって『春木律人』も、俺の中の一部なのだから——
「……友達からで良い。
少しでもその可能性を考えてもらえるなら、俺と友達になって欲しい」
ガクは、イオリの問いに答えた。
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