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-ガク-ともだち①
その後ガクは、イオリと連絡先を交換して別れ、父親と合流した。
父親からは勝手な行動を取りすぎだと叱られ、
火葬場へ向かうバスの中ではガクを待っていた親族一同から嫌味を言われと散々だったが、
祖父の火葬が終わり、一人暮らしのアパートに戻ってからは落ち着いた日常が戻って来た。
「ガク〜、今日インカレ飲み来るよな?」
「あー……ごめん、今日パス」
授業を終え、テキストを鞄にしまっていると、同じサークルの友人たちがガクの周りに集まって来た。
「女子大生わんさか来るよ?!」
「バイトのシフト入っちゃってさ」
「マジかよ。男女比率が極端に男寄りな我が校にとって最大の出会いの場!女子大との交流!!
そんな貴重なチャンスを逃してもいいのか?」
「バ先で風邪が流行ってて、他の子がみんなダウンしてさ。
穴を空けるわけにもいかないし、代理で入ることにしたんだよね」
そう言ってガクは鞄を背負うと、
「じゃ、明日な!」
と言い、仲間たちに背を向けた。
「……ちえー。ガクも来るって言ったら、女の子たちの食いつきが段違いなのに。
ガク、ビジュ良いし気遣い上手だから」
ガクが教室を出た後、友人の一人ががっかりしたように言った。
「しゃーない。
ガク、地方から上京してきて一人暮らしじゃん。
仕送りが家賃と光熱費で丁度だから、バイトしないと食費とか、飲み代だとかの交際費も捻出できないんだとよ」
別の友人が諭すように言う。
「ガクのためなら、全額奢ってもいい!って女子が群がりそうだけど」
「でもガクって女に貢がせるタイプには見えないよ」
「それな。早朝バイト明けのガクと学食で会った時なんか、『働いて食う飯はうめぇ……』とか言いながら一番安い定食食っててさ。
なんか俺……涙出ちゃったよ。健気で」
「はは、お前が母性本能くすぐられてどうすんだよ。
——でもわかる。ガクはバイトばっくれたり女に貢がせたりはしないだろうな。真面目だもん」
——東京の大学に進学して、良かったこと。
色んな地域から集まってきた同級生たちと切磋琢磨して高め合えること。
将来良い企業で働いて、良い給料を貰えるようになりたいって考えたら、それなりの学歴や学生時代の成果物を求められる。
収入の平均や、業種の豊富な選択肢を考えれば、東京で就職するのが一番堅い。
だから同じように都内での就活を見据えている人たちと、今のうちから情報交換できるのは大きなアドバンテージになる。
それから友人と色んな経験ができるのも、都心の大学に進学してきて良かったと思えることだ。
——そして悪かったこと。
色んな人と交流するのも、色んな経験をするのにも、とにかく金がかかること。
家族を説得して上京して来た手前、仕送りがあるだけでも有り難い。
一人暮らしってだけで何かと入り用なのに、飲み会だとか、皆で遊びに行くとか、人と何かをするってだけで出費が発生する。
付き合いが悪い、ノリが悪いと思われたら最後だ。
バイトと勉強をしっかりこなしつつ、付き合いの時間もちゃんと作る。
昔から、何をするにも要領は良いほうだ。
身体さえ壊さなければ、これから先も『ちゃんと』した大学生活を送っていけるだろう。
——でも、今日は。
ガクの心臓は、授業の終わりが近づいて来た頃から早鐘のように鳴っていた。
バイトのシフトが入ったと言って出て来たが、本当は違う。
ガクは早足で歩きながら、ちらりとスマホを見た。
新着メッセージが一件。
『駅前のカフェに入ってます』
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