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-ガク-ともだち③
「げいだい?」
「東京藝術大学——上野の……」
「え!?」
ガクは目を丸めた。
東京藝大って、芸術系大学の最難関だよな。
っていうか……美大とか芸大って、学費がとんでもなく高いんじゃないっけ。
やっぱり——イオリの家って金持ちなんだな……。
「……すごい。
東京藝大って、その道のエリートが行くところだよな。
しかも、ちゃんと学業も出来ないと入れないんじゃないっけ」
「学科試験の方は、普通に授業を受けていれば入れますよ」
「いや、それが凄いんじゃん。
普通は授業を受けただけじゃ入れないんだから!」
ガクは興奮しながら続けた。
「それに俺、芸術のことは詳しくないけれど
東京藝大って、国立だから併願先として受験する人も多くって、浪人も一年二年じゃ済まない人が大勢いるから、毎年とんでもない倍率だって聞いたことあるよ。
俺と同い年で二年生なら、イオリはそこにストレートで合格したってことだよね。
それってとんでもないことじゃん!」
「……はぁ」
イオリはあからさまに不機嫌そうな表情になり、ため息を吐いた。
「えっと……。ごめん」
ガクはそれを敏感に察知し、即座に謝った。
「なんか俺、気に触ること言ったかな?」
「いえ別に」
「そう?俺、鈍いところあるからさ、話してて嫌な気持ちになったら教えて欲しい」
真っ直ぐに瞳を向けると、イオリは瞼を伏せた。
「別に……僕が藝大生だと自己紹介すると、大概あなたのような反応をされるので、あなたの言動が特別不愉快だとは思ってません」
「けど、嬉しくもない……んだよね?溜め息ついてたし」
「……」
イオリは少し考えた後、また小さくため息をつき、こう言った。
「好きで芸術系の大学に進んだ訳じゃないんです。
だから持ち上げられても、どう反応を示したら良いか迷ってしまう」
「……そっか」
ガクは、これ以上大学のことには踏み込まない方が良いと思い、別の話題を探そうとしたが、イオリが独り言のように溢した。
「ほんと……、大学でもバイオリンと向き合わなきゃならないなんて——」
「バイオリン?」
「——ああ。大学ではバイオリンを専攻してます」
それを聞いたガクはパアッと顔を輝かせた。
「そうなんだ!道理で——
告別式でイオリが演奏していたバイオリン、本当に綺麗な音色だった。
そっか、イオリは『今世』でもやっぱりバイオリニストなんだな……」
するとイオリはじろりとガクを睨みつけた。
「あの。僕、自分の前世の記憶とか全く無いですけれど。
少なくとも『僕』は自分のことをバイオリニストだと名乗るつもりはありません」
「え?だって、大学でバイオリンを学んでいるくらいだから、将来はプロのバイオリニストになるんじゃ——」
「僕、嫌いです。バイオリン」
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