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-ガク-ともだち⑥

「はぁ……」 ガクはスマホの通知欄を一瞥し、ため息を吐きながら項垂れた。 「元気ないなー、ガク」 「最近ずっとスマホを気にしてるよな」 イオリとお茶をしてから一週間。 あれ以来、イオリからの連絡はない。 正確には、別れた後に『今日はありがとう!またな!』とメッセージを送ったのだが それに対し返ってきたのはペコリとお辞儀をしているキャラクターのスタンプのみで、そこでやり取りは潰えていた。 ガクは元々、マメに連絡するタイプではなく 友人間や、グループチャットでも適当にひと言で返すか、スタンプで済ませることが多かった。 が、この一週間は、イオリにどんなメッセージを送ったら返事をもらえるだろうかと頭を悩ませ続けていた。 『この間は楽しかった。良かったら、また会わない? 今度は遅くまでやってる飲み屋はどうだろう? 酒飲めなかったら飯屋でもいいし! 場所も藝大の近くで良いよ、俺チャリでどこまでも行けるから!』 「——長いよな……」 下書きをしていた文章を消していく。 『おつ!また遊ぼ』 「——軽いよなぁ……」 これも違うな、と再び文章を消す。 書いては消してを繰り返すうちに一週間が経ち、その間、向こうからの連絡は一切来ていなかった。 「なあガク〜、今度白百合の子たちと飲み会すんだよね。 ガクが来てくれたら女の子も盛り上がるからさ——」 「——えッ!なに!?今話しかけた?」 ハッと我に返り、ガクがスマホから視線を離すと、いつものサークル仲間達がガクの周りに集まっていた。 「あー……取り込み中?」 「いや、大丈夫!えっと、何の話してた?」 「うちとキャンパス近い白百合の子たちと今度——つうか」 友人はガクの肩に手を回すと、ニタニタしながらスマホに視線を向けてきた。 「いま文章打ってたよな?何、もしかして彼女できたん?」 「え!?」 「それならそうと言ってくれよなぁ?」 「いや、違うけど——」 「じゃあ俺らの存在もまるで視界に入ることなくメッセージを書いてた相手は誰だよ?」 「……ともだち?」 「……あー?なるほど? 今は友達だけど……って意味ね?」 友人がニタリと笑うと、ガクは思わずムキになって否定した。 「ちげえし!! 彼女とか、彼女になりそうな子とかじゃないから! ……メッセージの相手、男だし!!」 なぜこうもムキになってしまったのだろうか。 友人達に信じてもらえたかわからないが、 みんなにんまりとした笑顔のままということは、どうやら彼女疑惑は拭えていないようだ。 「本当だって!ホラ——名前のとこ、『伊織』ってなってるだろ!?」 ガクがそう言って皆にトーク画面を見せると、友人達はうーんと首を捻った。 「いや、『イオリ』って……」 「女の子の名前じゃね?」 「男だってば!!」 ガクが正そうとすると、 「逆にそんな必死に否定されるとなー」 と友人達は面白がってきた。 「なに?俺らに紹介したら略奪されるかもとかビビってる?」 「はあ?」 「だーいじょうぶだって! ガクの本命に俺らが手を出す訳ないじゃん! ……彼女さんのお友達は紹介してもらいたいけど」 「彼女じゃないってば!」 「で、イオリさんはどんな感じの人なん?」 「ええ……? そうだな、色が白くて線が細くて…… なんかこう……品があって…… 身につけているものもきちんとしてて…… そしてバイオリンが上手で——」 「すげえ、お嬢様じゃん」 そう言われて、確かにその特徴だけでは男だと信じてもらえないような気もした。 っていうか、男だからなんだ。 女だったら何なんだ。 別にそこの誤解を解くことに必死になることもないだろうに。 俺にとってイオリは、『やっと再会できた運命の人』。 イオリが男だろうが女だろうが、そんなのどっちだっていい。

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