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-ガク-ともだち⑦
ガクが、この怠絡みをどう乗り切ろうかと内心思っていたその時だった。
スマホの画面が光り、メッセージの通知が表示された。
「——イオリだ!!」
思わず声に出し、画面を覗き込む。
『今日、上野で会えますか?』
「っっっしゃー!!!」
その場でガッツポーズを決めた直後、周囲の視線を一身に集めていることに気付く。
「恋だな」
「恋ですな」
友人達が口々に言い、ぞろぞろと離れていく。
「あ……。これは——」
「ガクは本命とよろしくどうぞ〜」
「だからぁ……ッ」
「俺ら寂しい独りもんは、女子大生との飲み会で起死回生を図りますんで……」
「お……おう。頑張れ……?」
ガクを残し、飲み会へと去っていく仲間達。
だが、今のガクにはありがたい流れだった。
『りょうかい。授業終わったから今から行く』
あれほど悩んでいた文章を一瞬で打ち込むと、メッセージを送った直後に席を立った。
「調布から上野まで……だいたい一時間ちょっとか」
ガクは自転車に跨がると、ギアを重くした。
電車代を節約したいし、電車を使ったところでチャリとそこまで大差ない。
筋トレ代わりにもなるし!!
ガクはそう自分に言い聞かせると、上野まで自転車を走らせた。
上野駅が近付き、人通りが増えてくると、ガクは自転車を引いて駅前へ向かった。
ちょうど帰宅ラッシュが始まっていたため、人に当たらないよう気を付けて進んで行くと、公園口のところにイオリの姿を見つけた。
後ろにバイオリンのケースを背負い、建物の壁に持たれながら待っているイオリからは形容し難いオーラが出ていた。
派手ではない。
決して派手ではないのに、圧倒的な華やかさ。
そこに立っているだけで、それ以外の通行人を『モブ』にしてしまうような輝きを纏っていた。
芸能人のような、いかにもなオーラとは違うが、そこにいるだけで人目を惹いているのがわかる。
イオリの前を通り過ぎる人は、誰しもイオリを一瞥していた。
イオリはそれらの視線すべてを視界に入れないよう、何か本のようなものに目を落としている。
「——お待たせ」
ガクが声を掛けると、イオリはその声に反応し、顔を上げた。
自転車を引いてやって来たガクを見て、イオリは一瞬息を呑んだ。
「……大学、調布ですよね?」
「ん?うん」
「……調布から、ここまで……?」
「チャリで来た」
ガクがにっこり笑うと、イオリは徐にスマホを取り出し、マップアプリを開いた。
「電通大から上野駅まで、自転車で一時間半……」
「俺が漕ぐ速さなら、一時間ちょっとで来れちゃうんだよな〜!」
「……それでも一時間、漕いで来たんですね」
イオリはそう言ったあと、
「自転車って言ってくれたら、別のところにしたのに」
と溢した。
「でも上野って、イオリの大学があるとこだろ?
せっかくだから案内してよ、上野!!」
ガクが元気よく言うと、イオリは腕時計に軽く目を落とした。
「……と言っても、美術館や博物館はもう閉館時間過ぎてますし……。
アメ横のほうはごちゃついてるから、自転車引きながらじゃ邪魔だろうし……」
「俺はどこだっていいよ!どこでも楽しめる自信しかない」
「……じゃあ……」
イオリとガクは上野恩賜公園を散歩した。
「案内するような場所でもないですけど」
とイオリは言ったが、ガクの目はキラキラと輝いていた。
「上野公園、久しぶりかも!
ちっちゃい時に家族旅行で東京に来て、上野動物園に行った時以来?」
「そうですか」
「イオリにとっては見慣れた景色なんだよな。
そう考えるとなんか不思議だけど、イオリのホームに連れて来てもらえたって思うとなんか嬉しいな」
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