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-ガク-ともだち⑧

ガクが目を細めながら公園の景色を楽しんでいると、イオリは戸惑いがちに言った。 「……ガクさんは僕のこと、随分と親しいように接して来ますけど…… 僕はあなたと会うのがまだ三回目なので、正直——距離感を掴みかねています」 「!……そっか」 それもそうだよな。 この一週間だって、俺ばかりが落ち着かない毎日を過ごして来たんだろう。 たった一週間だけれど、イオリに会っていない一週間はとてつもなく長く感じた。 イオリのことを前世から知っている俺としては、この距離感がもどかしく思える。 あの時はもっと近い距離で接していた。 早くあの頃の関係を取り戻したい—— 無意識にそんな気持ちが先走ってしまっているのかもしれない。 でも、友達から始めたいと言ったのは俺だ。 下心ばかりだと思われたりしたら、友達としての『次』が無くなってしまうかもしれない。 挽回しないと—— 「ごめんな。 俺——誰にでも馴れ馴れしくしちゃうところあるからさ」 イオリ相手だから距離感を詰めてるわけじゃない。 だからどうか嫌な気持ちを抱いてほしくない——そんな言い訳を込めての言葉だった。 「誰にでも……ですか」 イオリはガクの言葉を繰り返した。 「そっ。だから、俺の接し方が不快に感じたら遠慮なく言って欲しい。 こういうのって人に指摘されないと気付けないしさ」 「……分かりました」 イオリは頷くと、視線の先に自販機を見つけた。 「——そういえば喉、渇いていませんか」 「喉?」 「ここまで自転車で来たんでしょう?」 イオリは自販機に近付くと、 「どれにします?」 と尋ねた。 「……あっ!」 そこでガクは思い出したように言った。 「そういえば!こないだのカフェ、奢ってもらった……」 ガクは咄嗟に財布を取り出すと、 「ここは俺が!」 と宣言した。 「え?いや、僕は——」 「カフェ代には及ばないけども! 奢られるばっかりじゃ示しがつかないから」 「……じゃあこれで」 イオリはレモンティーのボトルを指して答えた。 ガクがレモンティーを買って渡すと、イオリは 「ありがとうございます」 と丁寧に頭を下げたあと、ボトルに口をつけた。 「はは、缶ジュースくらいで畏まることないって」 ガクは笑いながら、先へ進もうとした。 「……自分のは選ばないんですか?」 イオリが訊ねると、ガクは 「俺は平気!」 と言い、再び歩き始めた。 金が無い、とは言いたくなかった。 電車に乗ること、缶ジュースを買うことも惜しむような金銭感覚だと思われること自体、恥ずかしいと感じていた。 「——ガクさん」 するとイオリが、立ち止まって名前を呼んだ。 ガクがきょとんと振り返ると、イオリはレモンティーのボトルをガクに差し出して言った。 「飲んで」 「えっ……」 「今の季節、夜でも熱中症になります。 水分はとらないとダメですよ」 ガクは目の前に出されたレモンティーと、イオリの顔を見比べながら訊ねた。 「……イヤじゃない?」 「嫌ですけど」 「イヤなんかい!」 「——普段なら、人と回し飲みなんてしたくありません。 ……でも」 イオリはガクの手の中に、やや強引にボトルを押し込めた。 「こんな程度を嫌がっていたら、友達以上の関係にはなれませんよね?」

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