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-ガク-ゆらぎ⑤

するとイオリは視線を前に戻した。 「なら、その分休みを満喫しないといけませんね」 「!……だな!!」 映画館に着くと、二人は上映中の作品掲示板に目を通して行った。 「なんか気になるのある?」 「ガクさんは?何かありますか」 「俺、最近の流行りとかあんまり知らないんだよねー……」 夏休みに入る少し前だからか、まだ目玉となるような作品のラインナップは少ない。 国民的アニメの劇場版の類はこぞって上映前。 有名どころの洋画もいくつかあるが、シリーズものの続きだったため、前の映画を観ていなければ詰みそうだなとガクは思った。 「んー……」 ガクが暫く腕を組んで悩んでいると、イオリはふと画面の端の方に小さく表示されているタイトルを見て言った。 「戦場のメリークリスマス……は、どうでしょう?」 「え?それって——古い映画の?」 「名作映画のリバイバル上映枠ですね。 今週は戦場のメリークリスマスをやっているそうですよ」 「へえぇ。あの音楽は有名だけど、映画の方は観たことがないなあ。イオリは?」 「僕も音楽しか知らないです」 「じゃあこれにしてみる?」 ガクが振ると、イオリはこくりと頷いてみせた。 二人はそれぞれにチケットを支払い、端の席に並んで座った。 「映画、めっちゃ久しぶりだから楽しみだな」 ガクはスマホの電源を切りながら、わくわくした表情で言った。 が、映画が始まると、ガクの表情は硬くなっていった。 舞台は第二次世界大戦中の1942年、インドネシア・ジャワ島の日本軍捕虜収容所。 冒頭では兵士の一人が、捕虜となっていたオランダ人男性と性的関係を持ったことが元で捕えられ、切腹を命じられるという重々しい展開が続く。 その描写は、嫌でも『前世の自分』と重なる部分があった。 1944年のビルマ、日本軍の駐屯地。 そこで出会った弓弦と、自分の欲を満たすために関係を結んだ夜の記憶が思い出される。 そうだ。 俺——いや律人は、切腹になってもおかしくないような規律違反を犯した。 あの時の光景を仲間の兵に見られてしまっていたがために、密告され、そして弓弦は——

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