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-ガク-ゆらぎ⑧

「——映画のまち?」 カフェを出た後、イオリと並んで歩きながらガクは調布が映画の街と呼ばれている背景を説明した。 「——そういうわけで、調布といえば映画!と思って、今日は映画に誘ったんだ」 「そうなんですね」 「まあ、映画の内容はちょっと重たかったけれども」 「僕は楽しめましたよ」 「マジ!?良かったぁ」 ガクは嬉しそうに言った。 「上野も美術館や博物館が集まってて、いわば芸術の街じゃん? それに比べて調布って何があるかなって思ったんだけど、今回下調べをしたお陰で街の個性を知れた感じ」 「下調べ、してくれていたんですか?」 イオリが訊ねてきた。 「あ、下調べと言っても、そんな大したことは検索してないけども。 俺、あんまり東京の観光とか遊ぶ所とか知らなくて。 自分の通ってる大学の周りに何があるかも正直知らない有様だからさ」 ガクが照れ笑いを浮かべながら言うと、イオリは「じゃあ」と口を開いた。 「これから知っていけばいいんじゃないですか」 「だな!」 「この次はどこに行きましょうか」 「!」 ガクはパッと顔を輝かせた。 「次——また会ってくれるんだ」 「?はい」 「めっっちゃ嬉しい!!」 ガクが喜びを噛み締めていると、イオリはふっと小さな声で笑った。 その僅かな空気の振動を聞き漏らさなかったガクは、驚いてイオリの方を見つめた。 「……イオリ?」 「そんなに喜ばれるとは思わなかった」 「そりゃあ……! ——いや、こんなテンション上がってるの、引くよな。ごめん」 「それ謝ること?」 イオリはおかしそうに、目を細めた。 綺麗な横顔がくしゃっと崩れる、見たことのない表情。 ガクは思わず、『可愛い』と口に出してしまいそうになったのをぐっと堪えた。 平和で穏やかな空気が流れている。 前世の二人ならば、決して享受することのできなかった時間。 ああ、俺は今、好きな人と心地良い時間を過ごせている。 この時代に生まれ変わることができて良かった—— ガクの中で、確かな恋心を感じていた。 それが弓弦と重ねてのものか、イオリだけに向ける感情なのかは、まだ結論を出さなくてもいいだろう。 今はただ、『好きな人』と過ごせるこの瞬間を噛み締めたい——そう思った。

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