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-ガク-コンサートマスター②
「家庭教師か」
塾講師のアルバイトもしているガクにとって、中高生に勉強を教えることはそれほどハードルに感じない。
「でもそれなら、直接の先輩である駿が教えてあげた方が、後輩も気兼ねなく質問できたりするんじゃないの?」
「俺は人に教えるのはあんま向いてなくてさ。
ほら、俺って感覚派の天才型だし?」
「はぁ」
「まあ、それは冗談だけど。
ガクは主席入学だし、後輩も目指してる大学の主席に教えてもらえるってなったらモチベも上がると思うんだよね」
「うーん」
まあ友達の紹介なら、よほど変わった生徒やご家庭ってことはないよな。
それにもしかしたら、将来ウチの学生になるかもしれないなら
応援来てあげたいような気もする……。
「あとさー」
少し考えて込んでいたガクに、駿はこそっと言った。
「専門の会社から派遣されて来る家庭教師って、仲介料か発生するから
手元に入る金も予めマージン引かれた額になるけどさ。
俺がもともと頼まれていたのをガクに代わってもらうわけだから、仲介料はゼロ!」
「……なるほど?」
「おまけにその後輩んち、なかなかのお金持ちなんだよね。
模試とかで、ちゃんと成績が伸びたって分かったら、上乗せの報酬も弾むってさ」
「マジ?」
「マジマジ。後輩の親御さんがいわゆる教育ママでさ、とにかく結果を出してくれる先生を探してるって言ってんのよ。
こりゃ〜もう、ガクにおあつらえ向きっしょ!?」
平日入れて、報酬も弾むなら、やるしかない。
「——わかった、やってみる」
「決まりだな!」
「あ、その後輩の名前と住んでるところは?」
「月島翼!家は成城にあるからここから自転車でも行ける距離だよ」
「おお、それは助かる!」
こうして駿に家庭教師のバイトを斡旋してもらったガクは、早速二日後に初回の講習に伺う約束を取り付けた。
教えてもらった住所をマップアプリで探しながら歩いて行くと、そこには小綺麗な一軒家が建っていた。
成城に一軒家を持っているというだけで、財力のある家庭だということがわかる。
中高時代、塾に通わせてもらえるようなお金が家に無く、まして個別指導の家庭教師をつけてもらえることなどなく
家から離れたところにある大学附属図書館まで通い詰めて勉強したことを思い出し、ガクは少し羨ましくなった。
ガクが玄関のチャイムを押すと、ドアを開けたのは若い女の子だった。
「こんにちは。
お邪魔させて頂きます、家庭教師の——」
「ハイ!よろしくお願いします」
「っ、ええと、翼さんのご兄弟……かな。
お兄さん?弟さん?を呼んで頂けますか」
ガクが女の子に告げると、女の子はきょとんとした後、ぷっと噴き出して言った。
「ああ。もしかして駿先輩、伝えてなかったのかな?」
「え?」
「よく名前だけだと性別間違えられちゃうんですけど——月島翼は私です」
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